七夕。ラムネ瓶ごしの片想い

 わたしは赤嶺伊月(あかみね・いつき)。16歳の高校2年生。短い黒髪に、リップクリームのみ塗ったきりの色の薄い唇。男子みたいにきつい目力。当然、誰かの彼女になんか、なれない。
 わたしには一つ上の兄貴がいる。赤嶺葉月(あかみね・はづき)。運動神経抜群の、自慢の兄貴だった。

 最近、兄貴に彼女さんができたという話はずっと家族の団欒の時に聞いてた。スポーツ雑誌と漫画雑誌だけ買ってたような兄貴が、ヘアスタイルを気にして美容院で髪を整えたり、メンズの美容グッズを洗面台に置くようになった。

 七月七日。七夕の日に家に来た「彼女さん」。愛(あい)さんと名乗ったその人は、織姫様のような、とてもほっそりとした美人さん。整った顔立ち、肩より少し長い髪はほんのり茶色く染められている。清潔感のあるヘアスタイルなので、高校の先生にだって叱られないだろう。抜群のスタイルを魅せるかのごとく、水色のワンピースを着ていた。手には白いヒラヒラした帽子があった。
「どこかのモデルさんが来たと思ったら、うちの葉月の彼女さんなんだもんねー」なんて、うちのお母さんは大喜び。
 胸の奥がモヤモヤした。はっきりと形容したら、自分のことが嫌いになりそうな「感情」が生まれた。

 七夕。そして、土曜日で、市の外れの河川敷で、毎年、小規模な花火大会があるはずだった。
 スマホ一つと財布と、そんなものだけでほとんどいっぱいになる小さなぶりっこなワインレッド色のカバン。わたしはそれしか持たず、夕方、ふらりと家を出てしまった。