チャラい社長は私が教育して差し上げます!

罪悪感の訳は、私が少し嘘を吐いたから。もしくは、正確性を欠いたから。社長に言った、”同棲してる恋人”の部分は、正しくは”同居してる元恋人”だ。

聡とは、大学のコンパで知り合い、やがて恋人同士になった。そして3年程前に私のアパートで同棲を始めた。

でも直ぐにセックスレスになり、今では、たぶん向こうもだけど、愛情なんてすっかり無くなってしまった。殆ど会話は無く、恋人どころか友人かどうかも怪しいと思う。

聡は新卒で就職したものの、酷いブラック企業だったようで、半年ぐらいで辞めてしまい、その後はフリーターをしている。引き込まないだけマシだけど、殆ど私が養ってあげているようなものだ。

家ではネットゲームとかばかりしてて、私との会話はほぼゼロ。今や私には何のメリットも無いのに、聡をアパートから追い出す事が出来ない。例えるなら、ニートの息子を養う母親みたいな状況だと思う。


私の内線携帯に着信があり、見ると、私と同期入社で仲がいい、総務の野田恵子(のだけいこ)からだった。

「秘書課でございます」
『舞だよね?』

私の方は周囲に人がいるから、私用と判らないよう丁寧に話し、恵子の方は周囲に人がいないらしく、いつもの口調になっている。

「はい、朝倉は私ですが?」
『今夜、飲みに行かない?』

「ちょっと時間がはっきりしませんので……あ、掛け直します!」

私の視界の中で、社長が社長室から出るのが見えた。しかも社長はショルダーバッグを肩に掛けていて、外出すると思われるので、私は慌てて恵子との通話を切り、社長の元へ向かった。

ちなみに、恵子に時間がはっきりしないと言ったのは、私の退社時刻は社長次第で変わるからだ。