「辻󠄀元、くん?」

気付けば、わたしはその名を口にしていた。

しかし、自分がおかしなことを言っている事にすぐ気付き、わたしは慌てて「あ、ごめんなさい!気にしないでください!」と言いながら、指先や手の甲を使い涙を拭った。

すると、その男性は驚いた表情を浮かべながら「もしかして、、、西森?」とわたしの苗字を口にした。

「えっ、、、?」
「俺、辻󠄀元爽也。中学の時、三年間同じクラスだったよな?」
「え、、、嘘ぉ、、、本当に辻󠄀元くんなの?」

辻󠄀元くんは優しく微笑みながら頷くと「久しぶりだな。」と言った。

「実は三日前に隣に引っ越して来てさ。仕事終わりでこんな時間になって申し訳ないけど、挨拶回りしてたんだ。そしたら、まさか隣が西森だなんてなぁ。」

辻󠄀元くんはそう言うと、「こんな偶然もあるもんなんだな。」と笑っていた。

それからわたしが落ち着くと、辻󠄀元くんはわたしをソファーに座らせ、辻󠄀元くんも隣に腰を掛けた。

「それで、何があったんだ?」

柔らかい口調でそう訊いてくれる辻󠄀元くん。

わたしは一応恋人の雄介との今までのこと、生活状況が最悪だったこと、最終的に全財産を持ち逃げされた事を辻󠄀元くんに話した。

辻󠄀元くんは「最低、、、そんなクズ男もいるんだな。」と呟くように言った。

「わたし、一文無しになっちゃったの。だから、、、もうどうしたら良いのか分からなくなって、、、。」

わたしが俯きそう言うと、辻󠄀元くんは「金、貸そうか?」と言った。

しかし、わたしは「そんな!辻󠄀元くんにお金なんて借りられないよ!」と断った。

「でも、まだ支払い残ってるんだろ?それに何も食べずに約三週間も過ごすことなんて出来ないぞ?」
「それは、そうなんだけど、、、」
「じゃあ、残ってる支払い分だけ俺が立て替えるから、あとの三週間は俺んちで生活したら?飯くらい俺がどうにか出来るから。」
「え?!でも、、、」
「西森。お前さぁ、今までずっと、誰にも甘えられないで生きてきたんだろ?」

辻󠄀元くんの言葉がわたしの胸に突き刺さる。

図星だ、、、
わたしは、人に甘えられず、甘え方が分からず生きてきた。

すると辻󠄀元くんは「甘える練習だと思ってさ。俺に甘えてくれていいから。もしかしたら、その為に神様が俺達を再会させたのかもしれないし。なっ?」と言うと、わたしに優しく微笑みかけてくれた。

辻󠄀元くんは昔から優しい人だった。
それは今も変わらず、あの頃のままだった。