短い夏も終わり、ほぼ冬の寒さに近付いてきた北海道札幌市の10月。

十紀和の森書店という大型書店で働くわたし西森香世は、売場担当チーフを任され、基本的にはメインで文房具を担当しているのだが、売場担当チーフはもちろんその他の本、DVD、一等くじの方も把握、管理しなくてはいけない。

わたしの担当店舗である街中にある中央店は、大型書店の割に従業員が不足しており、わたしは休日出勤はもちろん、残業も当たり前のようにあり、目まぐるしく毎日売場を駆け回りながら仕事を何とかこなしていた。

「西森チーフ、喪中の受付お願いします。」

わたしが新しい商品の売場作りをしていると、本担当の望田さんがわたしを呼びに来た。

「分かりました、今行きます。」

わたしは作業を中断させると、レジカウンター横にある"年賀状、喪中ハガキ"の受付カウンターへと駆けて行った。

「いらっしゃいませ!お待たせ致しました!」

そう言いながら、受付カウンターで座って待つ年配の女性へと声を掛け、わたしも受付カウンターのパイプ椅子に腰を下ろした。

「あの、レジの人は、何もしないのかい?」

そう言ってお客様の視線の先に居たのは、同じ本担当の村川さんとお喋りをしている望田さんだった。

「あ、あのスタッフは年賀と喪中の担当じゃないんですよ。」

わたしがそう言うと、お客様は不満そうな表情で「あんな喋ってる暇があるなら、担当とか関係なく仕事覚えればいいのにね。わたしはよくこの店に来るけど、あんた一人がいつも忙しそうじゃない?」と言った。

「不快な思いを与えてしまっているのでしたら、申し訳ございません。」
「いや、あたしゃ、あんたに苛ついてるわけじゃないんだよ。えっとぉ、、、」

そう言いながら、お客様はわたしが首から下げている名札を見た。

「西森さん。あんたはよく頑張ってるよ。いつも丁寧に対応してくれるからね。」
「ありがとうございます。あ、それで、喪中ハガキでしたよね?」
「あ、そうそう。主人が亡くなってね。これ、書き方がよく分からないんだけど、どこを書けばいいんだい?」

わたしはお客様からのお褒めの言葉を胸に"頑張ろう!"と気合を入れ、喪中ハガキの受付を進めて行った。