最期の晩餐

「だって、何が一番腹が立ったかって言ったら、隼人のスケベな顔なんだもん」

 ムスっとしながらも、頷いたまま俯いている隼人の髪を撫でると、隼人が顔を上げて、

「俺も撫でたい」

 と、私の髪を撫で返してきた。お互いがお互いの頭を撫で合うという奇妙な光景に、

「何、コレ」「何だ、コレ」

 ふたりで目を見合わせて笑ってしまった。

「……仲直りってことで、いい?」

 隼人が首を傾げながらお伺いを立ててきた。

「……楠木さんに……その手紙をくれた友だちにね、隼人とのことを相談しててね、『許せないから別れた方がいいのかもしれない』って言ったらね、『別れないことになったら、絶対に許さなきゃいけないのか? 【別れないけど許さない】で良くないか?』的なことを言われてね、そうしたいと思う。どうしたって、他の女にスケベ顔をした隼人がムカついてムカついて仕方がない。だから、許さないけど別れない。それでいい?」

 やっと、楠木さんからもらったアドバイスの言葉を口にする。

「……いいよ、今のところは。許してもらえるように頑張るから」

 隼人が、ホッとした表情を浮かべながら笑った。

 見てたか、楠木さん‼ 上手く行ったぞ‼ 別れずに済んだってことは、楠木さんが神様に直談判してくれたおかげってことだよね? でも、ちょっと遅いよ‼ 途中、ギスギスしすぎて危うく別れそうになったぞ‼ と心の中で楠木さんに話しかける。

『神様の前、大行列でなかなか順番回ってこなかったんだよ』

という楠木さんの声が聞こえた気がして笑いそうになった。

「良かった。奈々未に振られなくて。絶対に奈々未と別れたくなかったから。だって俺、人生最後に食べる料理は、奈々未の手料理って決めてるから」

 隼人が両手で、ぎゅうっと私の手を握った。が、

「何その、私を置いて死ぬ決意」

 私は握り返さない。

「……あ、そうなるか。ゴメン。じゃあ、奈々未が生きている間は手料理をご馳走してください。俺、奈々未を看取れるように長生きするから」

 言い直しながら、隼人が私の手を握り返すから、今度は握り返してやった。



「別にいいよ、見送る側でも。最期の晩餐を作ることが、私の仕事だから」