最期の晩餐

 隼人がいなかったらきっと、楠木さんにお母さんのハンバーグを食べてもらうことは出来なかっただろう。楠木さんとあんなに仲良くなれなかったかもしれないのに。

「俺だけじゃないでしょ。奈々未も一緒に探したじゃん。……亡くなっちゃったんだね」

「うん。昨日の深夜に。……最後、会えなかった」

 楠木さんに会いたい悲しみが、大粒の涙になって溢れ出す。

「【ななみん】って呼ばれてたんだね。自分の彼女が患者さんからこんなにも好かれてたと思うと、なんか嬉しい」

 私の大泣きの最中に、間抜けなことをぬかす隼人に、大粒だった涙も小粒になる。

「元・彼女」

「それは亜子」

「亜子さんは前々彼女でしょ」

「俺、亜子と奈々未の間に付き合った人いないけど」

「わざとふざけてるよね。アナタの目の前にいるのは、元彼女の倉橋奈々未さん、二十六歳です。こんにちは」

 そっちがそういうスタンスくるのなら。と、ふざけ返す。

「……そんなに俺と別れたい? 亜子と抱き合っていたのは確かに俺が悪いけど、別れなきゃいけないほどの悪事だった?」

 今度は隼人が目に涙を浮かべた。

「……一回じっくり話合おうか。ソファ座って。お茶淹れてくる」

 そんなに悪いことをしたと思っていない隼人との話し合いは長時間になるだろうと、お湯を沸かしにキッチンへ行こうとすると、

「自分でやる。奈々未はベッドで寝てて。何飲みたい?」

 隼人が私を追い越してポットを手に取り、水を汲んだ。