最期の晩餐

『ちょっとは私の気持ちを察してくれよ』とげんなりしながらドアの鍵に手を伸ばし、ふと思った。

 わざとじゃないか? いつも通りの振る舞いをしながら、過去二回の彼女との抱擁をなかったことにする気じゃないか? ノーカウントになんかなるわけないだろ‼ させるかボケ‼

 さっきまで、隼人に会いたくない。話しても無駄だと諦めていたが、怒り再燃。ガッツリ顔合わせてこっぴどく叱りつけてやろう。

素早く開錠し、勢いよく玄関の鍵を開けた。

「遅いよー」

 可愛い顔で唇を尖らせながら「もう」と怒ってみせる隼人が経っていた。

 いつもなら『いい大人が可愛い顔なんか作ちゃって』と笑いながら迎え入れていただろう。が、今日は『何が、『もう』だよ』としか思わない。

「買い物、ありがとう」

 隼人が持っている買い物袋を受け取ろうすると、

「病人は重たいものなんか持たなくていいの。お邪魔しまーす」

 隼人は私の横をスルリと通り抜け、まるで自分の家かのように慣れた足取りでキッチンへ行くと、冷蔵庫を開けて買って来たものを詰め込み始めた。

 下ろせばいいのに、通勤用のリュックを背負ったまま作業をする隼人は、よっぽど溶けかかっていたアイスが気になっていたらしい。

 まるで図書館の本棚ように、冷蔵庫に綺麗に食べ物を収納する隼人の背中を感心しながら眺めていると、

「……ごめんね、奈々未。胃腸炎って、ストレスなんじゃないの? 俺のせいだよね」

 冷蔵庫の中を整理整頓し終わった隼人が、くるりと振り返った。