天才悪女は嘘を見破る2〜王太子の教育係になったはずが溺愛されてます。すべてを奪った義妹一家は自滅しました〜ユアン再会編

 王都から一週間ほど馬車で南に下り、アマリリスたちはカーヴェル公爵領最大の都市グラティムに入った。

 三角屋根で橙や黄色の壁の建物が、南地方特有の明るく陽気な風情を醸し出している。大通りは店が立ち並び、大勢の人々が行き交っていた。

 アマリリスたちはお忍び旅行を装っているので、少し裕福な商人夫妻風の衣装を身につけ違和感なく領民に馴染んでいる。

 だが、路地に目を向けると浮浪者が散見され、領民たちもどことなく疲れがにじみ出ていた。

(カーヴェル公爵領は近年不作が続いていたから、目に見えて影響が出ているわ……でも、私財が潤沢ならもう少しやりようはあるでしょうに)

「どうやらカーヴェル公爵は私財を投じる気はないようだね。かなり溜め込んでいるはずだけど」

 ルシアンもアマリリスと同じことを思ったのか、ちくりと嫌味を飛ばす。

「ええ。領民の暮らしより大切なものがあるようですね」

 なにしろカーヴェル公爵家には国家予算の三年分は私財があるのだ。エイドリックのように浪費するのも考えものだが、抱え込みすぎるのも強欲極まりない。