花束を花瓶に生け終えたあと。
玄関も、リビングも、今はもう静かで――
祝福の余韻だけが、やわらかく部屋に漂っていた。
涼介と美香奈は、ソファの上で並んで座っていた。
ふたりの左手が、そっと重ねられている。
指輪が、重なり合った薬指で淡く光っていた。
「……ふふっ」
笑い出したのは美香奈の方だった。
「ねえ、私……幸せすぎて、死んじゃいそう」
まるで冗談のように、でも少しだけ涙ぐんだ瞳で、美香奈がそう言う。
涼介は、ほんのり笑みを浮かべた。
「……死なないでください」
その声は、やさしく、どこかかすれていた。
――大切なものを、ようやく手に入れた人の声音だった。
照明の落とされた部屋。
カーテンの隙間から、夜風が微かに流れこむ。
言葉にしようとすると、すぐにこぼれそうになる。
それくらい――
今この瞬間の幸福は、
どこまでも静かで、やわらかくて、
苦しいくらいに“愛しい”ものだった。
ふたりはしばらく、何も言わずに手を重ねたまま。
鼓動の重なりを、互いの体温を、静かに確かめ合っていた。
「……この幸せ、壊したくないね」
「うん。……大切に、育てていこうね」
交わされた小さな約束は、
この先何十年先まで、ふたりを結ぶ“根”となっていく。
神谷家の夜は、
しんと静かに、
穏やかな愛に包まれて、
深く――深く、降りていった。
玄関も、リビングも、今はもう静かで――
祝福の余韻だけが、やわらかく部屋に漂っていた。
涼介と美香奈は、ソファの上で並んで座っていた。
ふたりの左手が、そっと重ねられている。
指輪が、重なり合った薬指で淡く光っていた。
「……ふふっ」
笑い出したのは美香奈の方だった。
「ねえ、私……幸せすぎて、死んじゃいそう」
まるで冗談のように、でも少しだけ涙ぐんだ瞳で、美香奈がそう言う。
涼介は、ほんのり笑みを浮かべた。
「……死なないでください」
その声は、やさしく、どこかかすれていた。
――大切なものを、ようやく手に入れた人の声音だった。
照明の落とされた部屋。
カーテンの隙間から、夜風が微かに流れこむ。
言葉にしようとすると、すぐにこぼれそうになる。
それくらい――
今この瞬間の幸福は、
どこまでも静かで、やわらかくて、
苦しいくらいに“愛しい”ものだった。
ふたりはしばらく、何も言わずに手を重ねたまま。
鼓動の重なりを、互いの体温を、静かに確かめ合っていた。
「……この幸せ、壊したくないね」
「うん。……大切に、育てていこうね」
交わされた小さな約束は、
この先何十年先まで、ふたりを結ぶ“根”となっていく。
神谷家の夜は、
しんと静かに、
穏やかな愛に包まれて、
深く――深く、降りていった。



