その日、美香奈は警察署へと足を運んでいた。
真木弁護士が依頼を受けている案件の関係で、
示談書類一式を警察へ直接届ける必要があり、
「手が空いてるならお願い」と言われていたのだ。
もちろん、涼介がその日“入籍報告”をしたなどとは露知らず。
スーツの上に薄いカーディガンを羽織って、書類ケースを抱えて署内に入る。
廊下を歩いていくと――
(……なんだろう、なんか……ざわざわしてる?)
どこかいつもと違う空気。
まるで“何か面白いことがあった直後”のような……そんな雰囲気。
ちら、と。
すれ違った若い男性署員が、彼女に視線を向けた。
続いてもうひとり――女性署員も。
(え、なに……? えっ、なにかついてる?)
戸惑いながら、いつも書類の受け渡しで顔を合わせる
事務官・山崎のデスクへ向かった。
「こんにちは、こちら、真木弁護士からの示談書になります」
「あ、橋口さん。いつもありがとうございます」
にこやかに書類を受け取る山崎さん。
だが、気になってつい訊いてしまった。
「……あの、ちょっと聞いてもいいですか?
なんか……署内の空気が、今日……賑やかというか……」
「ああ、それ、多分――」
と山崎は、ふっと笑って言った。
「……神谷さんのことだと思いますよ」
一瞬で、美香奈の背筋がピンと伸びた。
「……神谷さん? な、何かあったんですか?」
すると――
「ええ。今朝の朝礼で、入籍の報告されたんですよ」
「っ……!」
「それで、もう……顔、真っ赤にしてたって噂で。
署内、ずっとその話で持ちきりです。
女性署員は、もう撃沈モードでしたよ。“なんで彼女がいるの!”って(笑)」
「……っ!!」
その場で、美香奈はぎゅっと書類ケースを抱え直した。
顔に、一気に熱が昇るのが分かる。
それを見た山崎は、穏やかな声で続ける。
「でも、本当におめでとうございます、橋口さん。
皆さん、心から祝福してますよ」
「あっ……ありがとうご、ございます……」
カミカミで答えながら、美香奈は深く頭を下げた。
「それじゃ、これで……失礼しますっ」
そして――
まるで逃げるように、警察署を後にした。
外に出た瞬間、春の風がふわっと吹いた。
(……もう、なんであんな顔するの……!)
でもその頬は、柔らかな笑みに染まっていた。
真木弁護士が依頼を受けている案件の関係で、
示談書類一式を警察へ直接届ける必要があり、
「手が空いてるならお願い」と言われていたのだ。
もちろん、涼介がその日“入籍報告”をしたなどとは露知らず。
スーツの上に薄いカーディガンを羽織って、書類ケースを抱えて署内に入る。
廊下を歩いていくと――
(……なんだろう、なんか……ざわざわしてる?)
どこかいつもと違う空気。
まるで“何か面白いことがあった直後”のような……そんな雰囲気。
ちら、と。
すれ違った若い男性署員が、彼女に視線を向けた。
続いてもうひとり――女性署員も。
(え、なに……? えっ、なにかついてる?)
戸惑いながら、いつも書類の受け渡しで顔を合わせる
事務官・山崎のデスクへ向かった。
「こんにちは、こちら、真木弁護士からの示談書になります」
「あ、橋口さん。いつもありがとうございます」
にこやかに書類を受け取る山崎さん。
だが、気になってつい訊いてしまった。
「……あの、ちょっと聞いてもいいですか?
なんか……署内の空気が、今日……賑やかというか……」
「ああ、それ、多分――」
と山崎は、ふっと笑って言った。
「……神谷さんのことだと思いますよ」
一瞬で、美香奈の背筋がピンと伸びた。
「……神谷さん? な、何かあったんですか?」
すると――
「ええ。今朝の朝礼で、入籍の報告されたんですよ」
「っ……!」
「それで、もう……顔、真っ赤にしてたって噂で。
署内、ずっとその話で持ちきりです。
女性署員は、もう撃沈モードでしたよ。“なんで彼女がいるの!”って(笑)」
「……っ!!」
その場で、美香奈はぎゅっと書類ケースを抱え直した。
顔に、一気に熱が昇るのが分かる。
それを見た山崎は、穏やかな声で続ける。
「でも、本当におめでとうございます、橋口さん。
皆さん、心から祝福してますよ」
「あっ……ありがとうご、ございます……」
カミカミで答えながら、美香奈は深く頭を下げた。
「それじゃ、これで……失礼しますっ」
そして――
まるで逃げるように、警察署を後にした。
外に出た瞬間、春の風がふわっと吹いた。
(……もう、なんであんな顔するの……!)
でもその頬は、柔らかな笑みに染まっていた。



