その朝、神谷涼介はいつもよりわずかに落ち着かない足取りで、署内の相談室をノックしていた。
「……失礼します」
中にいたのは、捜査一課・課長の篠宮政吉。
神谷の直属の上司であり、長年“背中”を見てきた尊敬する先輩でもある。
「おう。どうした、神谷。なにかあったか?」
扉を閉めて席についた神谷は、しばし言葉を選ぶように沈黙した。
真面目な顔で、少しばかり緊張した様子。
「……篠宮課長って……ご結婚の報告、署内でどうされたんですか?」
一瞬、篠宮がまばたきを止めた。
そのあと、噛みしめるように聞き返す。
「……お前、それ……もしかして今日、報告しようとしてるのか?」
「ええ。実は……来月15日に入籍することになりまして……」
その瞬間、重い空気を破ったのは――
篠宮の大笑いだった。
「なんだよ、それ!
深刻な顔して入ってきたから、てっきり転属希望かと思ったぞ!」
「いやいや、真剣には真剣なんですよ……」
「だからさ、普通に言えばいいんだよ。
お前、得意だろ、“普通に”やるの。な?」
神谷は苦笑しながら、でも口を尖らせた。
「……でも俺……ああいうの、どうにも照れくさくて……」
その瞬間、篠宮の顔がふっと意味ありげに変わる。
「いいか、神谷。
所内でもずっと噂になってたんだぞ?」
「えっ……?」
「“あの神谷の彼女、めちゃくちゃ可愛い”ってな。
それに、“ちゃんと大事にしてる感”出しておかないと……」
そこで、声を潜めるように、さらに一言。
「……ここにはいくらでも“人的資源”があるんだからな。
警察官としてのお前の代わりはいなくても――男の代わりは、いるかもしれないしな?」
その言葉に――
神谷は、ぞっと身を震わせた。
「……課長、怖いこと言わないでくださいよ……」
「はっはっは、冗談だよ。
でもな、ちゃんと“公”にもしておくってのは、大事なことだ」
そう言って、軽く肩を叩かれた。
「朝礼で声かけてやるから、お前はしっかり伝えろ。
いいな、神谷。男としての“報告”だぞ?」
「……はい。ありがとうございます」
立ち上がる神谷の背中に、
篠宮の笑い声が、やさしく追いかけてきた。
「……失礼します」
中にいたのは、捜査一課・課長の篠宮政吉。
神谷の直属の上司であり、長年“背中”を見てきた尊敬する先輩でもある。
「おう。どうした、神谷。なにかあったか?」
扉を閉めて席についた神谷は、しばし言葉を選ぶように沈黙した。
真面目な顔で、少しばかり緊張した様子。
「……篠宮課長って……ご結婚の報告、署内でどうされたんですか?」
一瞬、篠宮がまばたきを止めた。
そのあと、噛みしめるように聞き返す。
「……お前、それ……もしかして今日、報告しようとしてるのか?」
「ええ。実は……来月15日に入籍することになりまして……」
その瞬間、重い空気を破ったのは――
篠宮の大笑いだった。
「なんだよ、それ!
深刻な顔して入ってきたから、てっきり転属希望かと思ったぞ!」
「いやいや、真剣には真剣なんですよ……」
「だからさ、普通に言えばいいんだよ。
お前、得意だろ、“普通に”やるの。な?」
神谷は苦笑しながら、でも口を尖らせた。
「……でも俺……ああいうの、どうにも照れくさくて……」
その瞬間、篠宮の顔がふっと意味ありげに変わる。
「いいか、神谷。
所内でもずっと噂になってたんだぞ?」
「えっ……?」
「“あの神谷の彼女、めちゃくちゃ可愛い”ってな。
それに、“ちゃんと大事にしてる感”出しておかないと……」
そこで、声を潜めるように、さらに一言。
「……ここにはいくらでも“人的資源”があるんだからな。
警察官としてのお前の代わりはいなくても――男の代わりは、いるかもしれないしな?」
その言葉に――
神谷は、ぞっと身を震わせた。
「……課長、怖いこと言わないでくださいよ……」
「はっはっは、冗談だよ。
でもな、ちゃんと“公”にもしておくってのは、大事なことだ」
そう言って、軽く肩を叩かれた。
「朝礼で声かけてやるから、お前はしっかり伝えろ。
いいな、神谷。男としての“報告”だぞ?」
「……はい。ありがとうございます」
立ち上がる神谷の背中に、
篠宮の笑い声が、やさしく追いかけてきた。



