食後の静かな時間。
ソファの上で、ブランケットに包まれながら寄り添っていたふたり。
美香奈が、ぽつりと呟くように口を開いた。
「……私ね、あんまり、親と仲良くないんだ」
涼介は、そっと美香奈の顔を見つめる。
(……そういえば、親の話をあまり聞いたことがないな)
「……私、いつも、お姉ちゃんと比べられてたの」
ぽつりと落ちたその言葉には、
どこか遠くを見つめるような、乾いた響きがあった。
「お姉ちゃんは……優秀で。
成績も、スポーツも……なんでも完璧でさ」
短く息を吸って、吐く。
「大学院まで行って、今は製薬会社で……薬の研究、してる」
そこまで言って、一度言葉を止めた。
少し、うつむいて――
「私は……できの悪い子だったから」
その自認が、ずっと心の奥に突き刺さっていたことが、
その声から伝わってくる。
「“そんな子に大学のお金なんて出せない”って……言われて」
「……だから、私は高卒で、就職したの」
言い切ったあとの沈黙に、
かすかな自嘲がにじんでいた。
「でも……その職場、ただ……
上からの指示を、そのまま淡々とこなすだけで」
声がどんどん細くなる。
苦しくなるほど、感情が締めつけられているのがわかる。
「毎日が……灰色だった」
「……誰とも会いたくないって思ってた」
「家と職場の往復だけ。
本当に……それしかできなかった時期が、あって……」
言葉を止めずに話し続ける美香奈の手を、
涼介はそっと握り、ぬくもりで返した。
「……それでも、やっぱり、法律の仕事をしてみたいって思って……」
言葉を選ぶように、美香奈は小さく息を継いだ。
「学歴不問の事務所に……履歴書、何通も出したの」
声がほんの少し震える。
それでも、続けるように頷いて――
「……そこで出会ったのが――真木弁護士だった」
少し間をおいて、
目元が緩むような、懐かしむような微笑み。
「“今がどんな状況でも、生きていれば道は開ける。
だから、一緒に挑戦してみよう”――」
その言葉を思い出すたび、心の奥が温かくなるのだと、
その声が伝えていた。
「そう言ってくれて……この人のもとで、頑張りたいって……
心から思ったの」
一瞬、感情が揺れる。
そして、続く言葉は少しずつ、深く沈んでいくようだった。
「働きながら……勉強して、資格取って。
やっと、“私にもできる”って、思えるようになってきた……」
「……なのに――」
ぐっと喉の奥に何かを押し込めるように、美香奈は言葉を切った。
「事件のとき、全部が……崩れ落ちたの。
生きるのも辛いくらい、絶望して……
なにもかもが、怖かった」
声は小さいけれど、ひとつひとつが重く響く。
「でも……そんな時に。
家族にも、友達にも……誰にも頼れなかった私を――」
「あなたが……救ってくれた」
そこだけは、しっかりと目を上げて、まっすぐに。
「警察官として、以上に。
人として……あなたは、私の“未来”を……一緒に、見てくれた」
ソファの上で、ブランケットに包まれながら寄り添っていたふたり。
美香奈が、ぽつりと呟くように口を開いた。
「……私ね、あんまり、親と仲良くないんだ」
涼介は、そっと美香奈の顔を見つめる。
(……そういえば、親の話をあまり聞いたことがないな)
「……私、いつも、お姉ちゃんと比べられてたの」
ぽつりと落ちたその言葉には、
どこか遠くを見つめるような、乾いた響きがあった。
「お姉ちゃんは……優秀で。
成績も、スポーツも……なんでも完璧でさ」
短く息を吸って、吐く。
「大学院まで行って、今は製薬会社で……薬の研究、してる」
そこまで言って、一度言葉を止めた。
少し、うつむいて――
「私は……できの悪い子だったから」
その自認が、ずっと心の奥に突き刺さっていたことが、
その声から伝わってくる。
「“そんな子に大学のお金なんて出せない”って……言われて」
「……だから、私は高卒で、就職したの」
言い切ったあとの沈黙に、
かすかな自嘲がにじんでいた。
「でも……その職場、ただ……
上からの指示を、そのまま淡々とこなすだけで」
声がどんどん細くなる。
苦しくなるほど、感情が締めつけられているのがわかる。
「毎日が……灰色だった」
「……誰とも会いたくないって思ってた」
「家と職場の往復だけ。
本当に……それしかできなかった時期が、あって……」
言葉を止めずに話し続ける美香奈の手を、
涼介はそっと握り、ぬくもりで返した。
「……それでも、やっぱり、法律の仕事をしてみたいって思って……」
言葉を選ぶように、美香奈は小さく息を継いだ。
「学歴不問の事務所に……履歴書、何通も出したの」
声がほんの少し震える。
それでも、続けるように頷いて――
「……そこで出会ったのが――真木弁護士だった」
少し間をおいて、
目元が緩むような、懐かしむような微笑み。
「“今がどんな状況でも、生きていれば道は開ける。
だから、一緒に挑戦してみよう”――」
その言葉を思い出すたび、心の奥が温かくなるのだと、
その声が伝えていた。
「そう言ってくれて……この人のもとで、頑張りたいって……
心から思ったの」
一瞬、感情が揺れる。
そして、続く言葉は少しずつ、深く沈んでいくようだった。
「働きながら……勉強して、資格取って。
やっと、“私にもできる”って、思えるようになってきた……」
「……なのに――」
ぐっと喉の奥に何かを押し込めるように、美香奈は言葉を切った。
「事件のとき、全部が……崩れ落ちたの。
生きるのも辛いくらい、絶望して……
なにもかもが、怖かった」
声は小さいけれど、ひとつひとつが重く響く。
「でも……そんな時に。
家族にも、友達にも……誰にも頼れなかった私を――」
「あなたが……救ってくれた」
そこだけは、しっかりと目を上げて、まっすぐに。
「警察官として、以上に。
人として……あなたは、私の“未来”を……一緒に、見てくれた」



