案内された処置室の奥、
カーテンの仕切りを静かにめくると、そこには、
すうすうと寝息を立てる美香奈の姿があった。
小さな酸素チューブをつけ、
腕には点滴の針が固定されている。
シーツの上に重ねられた手はわずかに冷たく、
指先がかすかに震えていた。
「ご面会は短時間でお願いしますね。
今、強めの抗菌薬が入っているので――
副作用でかなり眠気が出ることがあります。
あまり話せないかもしれません」
そっと声をかけてきた看護師に、涼介は小さく頷いた。
「……はい」
「ちなみに……旦那様でいらっしゃいますか?」
その問いに、涼介は一瞬まばたきをして、
わずかに口元を引き結んだ。
「いえ……彼氏です」
看護師は「あら」と少しだけ驚いたような笑みを浮かべ、
スーツ姿のまま現れた彼を見上げた。
「……このあと、お仕事に戻られるんですか?」
「……いえ。今日は、帰ります」
小さなやりとりのあと、看護師は静かにカーテンを閉じた。
室内には、美香奈の穏やかな寝息だけが残る。
――先ほどまで、あれほど荒れていた呼吸が、
今は驚くほど静かになっていた。
額の汗も引いて、頬の赤みも薄れている。
涼介はそっと、ベッドの横の椅子に腰を下ろすと、
眠る彼女の横顔を見つめた。
(……少しだけ、落ち着いたみたいだな)
呼吸のたびにゆっくり上下する胸に、
生きている実感が宿っていることに安堵を覚える。
小さく、しかしはっきりと、彼女の手をもう一度包む。
そして、ごく低い声でささやいた。
「明日、迎えにくるよ」
反応はなかった。
けれど、その手はかすかに力を返したように感じた。
涼介はそのまま、椅子から立ち上がり、
もう一度だけ彼女の髪を撫でると、
静かに病院を後にした。
その夜、神谷涼介は、
夜風の冷たさがやけに現実的に感じられる駐車場で、
ほんの一瞬、目を閉じて深く息を吸った。
守れること。
守れなかったこと。
全部、自分の中でちゃんと整理がつく日がくるのだろうか――
そう思いながら、
車のドアを開けて、運転席に滑り込んだ。
カーテンの仕切りを静かにめくると、そこには、
すうすうと寝息を立てる美香奈の姿があった。
小さな酸素チューブをつけ、
腕には点滴の針が固定されている。
シーツの上に重ねられた手はわずかに冷たく、
指先がかすかに震えていた。
「ご面会は短時間でお願いしますね。
今、強めの抗菌薬が入っているので――
副作用でかなり眠気が出ることがあります。
あまり話せないかもしれません」
そっと声をかけてきた看護師に、涼介は小さく頷いた。
「……はい」
「ちなみに……旦那様でいらっしゃいますか?」
その問いに、涼介は一瞬まばたきをして、
わずかに口元を引き結んだ。
「いえ……彼氏です」
看護師は「あら」と少しだけ驚いたような笑みを浮かべ、
スーツ姿のまま現れた彼を見上げた。
「……このあと、お仕事に戻られるんですか?」
「……いえ。今日は、帰ります」
小さなやりとりのあと、看護師は静かにカーテンを閉じた。
室内には、美香奈の穏やかな寝息だけが残る。
――先ほどまで、あれほど荒れていた呼吸が、
今は驚くほど静かになっていた。
額の汗も引いて、頬の赤みも薄れている。
涼介はそっと、ベッドの横の椅子に腰を下ろすと、
眠る彼女の横顔を見つめた。
(……少しだけ、落ち着いたみたいだな)
呼吸のたびにゆっくり上下する胸に、
生きている実感が宿っていることに安堵を覚える。
小さく、しかしはっきりと、彼女の手をもう一度包む。
そして、ごく低い声でささやいた。
「明日、迎えにくるよ」
反応はなかった。
けれど、その手はかすかに力を返したように感じた。
涼介はそのまま、椅子から立ち上がり、
もう一度だけ彼女の髪を撫でると、
静かに病院を後にした。
その夜、神谷涼介は、
夜風の冷たさがやけに現実的に感じられる駐車場で、
ほんの一瞬、目を閉じて深く息を吸った。
守れること。
守れなかったこと。
全部、自分の中でちゃんと整理がつく日がくるのだろうか――
そう思いながら、
車のドアを開けて、運転席に滑り込んだ。



