【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。

「熱で汗びっしょりだから、着替えさせときました。
髪も……あんまり力入れないように結んでいますから」

美咲はそう言って、玄関に立つ涼介に微笑を向けた。

「美香奈のこと、お願いします。たぶん……神谷さんが来たら、安心してると思う」

涼介は、黙って頷いた。

リビングには、うっすらと影が見える。
美香奈は、汗で少し濡れた髪を一つにまとめられた状態でソファに腰かけ、
その目はどこかぼんやりとしていた。

「……涼介……」

かすれた声。

「行こう。病院には、もう連絡してある」

そう言って彼女に上着をかけ、
そっと体を支えるようにして立ち上がらせた。

玄関先で靴を履かせながら、
涼介は、美咲に一礼して言った。

「助かりました。……本当に、ありがとう」

美咲は小さく頷きながら、
「またね」とだけ呟いて、扉を閉じた。


車内。
助手席に座る美香奈は、咳を繰り返していた。

「けほっ……ごほっ、ごほっ……っ……っはぁ……」

涼介はハンドルを握ったまま、
赤信号のたびにちらりと彼女に視線を向ける。

握った手の温度は高く、指先は冷えていた。

(……なんで……もっと早く来なかった)

自問のような後悔が、胸を刺していた。


病院に到着すると、
受付の奥から看護師がすぐに出てきた。

「橋口さんですね? どうぞ、こちらに」

美香奈は、思っていたよりもしっかりと頷き、
少しふらつきながらも自分の足で歩き出した。

「……ありがとうございます、……だいじょうぶです、今のところは」

表情には薄く緊張がにじんでいたが、
その受け答えは、家で見せていたものよりもずっと安定していた。

涼介はその姿を見て、どこかでほっとした。
けれど同時に、
彼女が“無理をしている”ことにも、気づいていた。

(せめて、ここまで来たら……何か、できるだろうか)

そんな想いを胸に、
診察室の前で静かに待ち続けた。