【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。

咳は止まらず、喉が焼けるように熱かった。
頬も耳も火照り、手足はやけに冷たく感じる。

(……これ、まずいかも)

美香奈は、ぼんやりと自分の呼吸音を聞きながら思った。

「タクシー……呼ぼ」

スマホに指を這わせ、タクシー配車アプリを開く。
ゆっくりと時間が流れるような錯覚の中で、
なんとか服を着替え、外に出た。



午後6時過ぎ。
クリニックの自動ドアが開いたとき、
受付の看護師がちらりと時計を見た。

「診察はもうすぐ終わりなので、時間がかかる場合は――
もう少し早めに来ていただけると助かります」

その言葉に、美香奈は小さく会釈して答えた。

「……すみません、頭が働かなくて」

なぜか、謝る言葉が自然と口をついた。
ふらつきながら椅子に腰を下ろすと、
すぐに名前を呼ばれた。

診察室の中、医師はカルテをめくりながら顔をしかめる。

「……あまり良くなってないですね。
レントゲンの所見も、前回とあまり変化がない」

低く唸るような声。

「……本当は、入院させたいくらいなんだけどな。
市立病院への紹介も、もう時間ギリギリだし……」

誰に向けた言葉なのか、曖昧な空気の中で医師はしばし黙る。

やがて、肩を落とすように言った。

「……とりあえず、解熱と呼吸を楽にする点滴だけ入れておきます。
もし帰宅しても状態が変わらないようなら、
そのときは入院設備のある病院に行ってくださいね」

それは、優しいようでいて、どこか冷たい響きだった。
医師としての判断は妥当だとわかっていても、
「もう打つ手がない」と、暗に告げられたような気がした。

処置室で、腕に針が刺さる感覚だけが妙に鮮明だった。

美香奈は、窓の外に沈む夕陽を眺めながら――
(涼介……今、何してるのかな)
と、かすかな熱にうなされるように思った。