【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。

水曜日の朝。
外では、春先特有の冷たい風が街路樹を揺らしていた。

室内。
静かに響くのは、美香奈の咳だけ。

「けほっ、けほっ……っ、……はあ……」

水を口に含み、背を丸めて息を吐く。
その手には体温計。
表示された数字に、美香奈の顔がわずかに曇った。

“39.3℃”

「……一回下がったのに……なんで……」

思わずぽつりとこぼす。

薬は飲んでいる。安静にもしている。
けれど、咳は時間が経つほど酷くなり、夜も眠りを浅くしていた。

涼介からの連絡は、
日曜日を最後に、顔を見ることなく。
毎日夕方になると、たった一通のLINEが届く。

『熱どう? 食べられてる?』

それに、「うん、ぼちぼち」と返すと、それきりだった。

(……仕事、忙しいんだよね。わかってる、けど)

乾いた目をしばし閉じ、
ベッドから抜け出してリビングの椅子に腰を下ろす。

テーブルの上には、真木弁護士が預けていった紙の箱。
中には、色とりどりの折り紙、リボン、厚紙のカード――
子ども向けのイベントで使うワークショップ飾りの素材が詰まっている。

「“小学生から始める子ども六法”……かぁ」

ぼそりと呟きながら、折り紙をひとつ手に取り、ゆっくりと指先で折り目をつけていく。

真木弁護士が初めて出版する、子ども向けの法教育入門書。
その記念イベントの装飾は、美香奈の“得意分野”だった。

切って、貼って、折って。
少しずつ、形ができていくと、不思議と気持ちが整ってくる。

「現実逃避だなぁ……」

そう思いながらも、手を止めることはできなかった。

カラフルな紙が花の形になり、
ひとつ、ふたつと、リボンで束ねられていく。

体はまだだるく、視界も霞んでいたけれど――
何かに集中しているうちに、孤独と不安がほんの少しだけ薄らいでいった。