【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。

クリニックの自動ドアが開くと、
白を基調とした待合室には、子どもとお年寄りの姿がちらほら。
その中に混ざるように、美香奈は小さくなって座っていた。

(……機械の音とか、消毒液のにおいとか……やっぱり苦手)

名前を呼ばれて診察室に入り、
医師に症状を説明し、聴診器を当てられ、
レントゲンを撮り――

「……うーん、咳の音、肺の奥で鳴ってますね。肺炎の手前ですね」

そう言われた瞬間、思わず座ったまま固まった。

「は、はいえん……?」

「今のうちにしっかり抗菌薬を飲めば大丈夫ですけど、
これは軽い風邪って感じじゃないですね。
今日から、少し強めの薬を出しますので、ちゃんと休んでください」

数十分後。
薬の入った小さな紙袋を抱えてクリニックの玄関を出ると、涼介の車がすぐそばに停まっていた。

助手席に乗り込むと、すぐに彼が顔を覗き込んできた。

「どうだった?」

「……肺炎になりかけ、だって」

「…………」

シートベルトを締めた涼介は、それきり口を開かなかった。
けれど、無言の“ほらな”が、車内に充満する。

美香奈は気まずそうにそっと紙袋を膝の上に乗せた。

「……思ってたより、ちゃんと怒ってる?」

「怒ってない」

「怒ってないの顔じゃないんですけど」

「怒ってない。ただ――」

赤信号で停車したタイミングで、
涼介はちらりとこちらを見た。

「……君がちゃんと呼吸できなくなったらって、
思ったら、冗談でも笑えなかった」

その一言に、胸の奥がぎゅうっとなった。

「……ごめん」

「キス禁止令、延長な」

「えええっ!」

今度こそ、ほんの少し笑ったように見えた。