【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。

ある木曜日の夜、美香奈はソファで毛布にくるまりながら、ぐずぐずと鼻をすすっていた。

「はくしゅっ……けほっ……けほっ……」

そのたびに、目の前でお茶を持って座っている涼介の眉がピクリと動く。

「……咳、ひどいな。熱は?」

「微熱程度……だと思う。たぶんね」

そう答えながら、ぐいと毛布にくるまって顔を隠す。

「顔、見せて。咳の音、胸から出てる」

「やだ、もう……キス禁止令、出したくせに……」

「当たり前だろ。感染する」

「冷たいなぁ……愛があれば風邪なんて吹っ飛ぶっていうのに」

「医学と感情は別だ」

不満そうな顔でそっぽを向く美香奈に、涼介はふぅ、とため息をついてから言った。

「土曜の午前、空けといて。俺がクリニック連れてく」

「やだ。病院こわい。注射いや。点滴いや。あと、あのにおいもいや……」

言いながら、毛布の中でごろごろと転がるように体勢を変える。
まるで子どものような抵抗に、涼介はしばし黙ったあと、ぽつりと呟く。

「……本気でイヤなのか、冗談で言ってるのか、わかりづらい」

「どっちも本気」

「どっちも?」

「うん、本気のイヤと、本気のワガママ」

「……ややこしい女だな」

それでも、土曜の朝。
涼介は美香奈を車で送り、
クリニックの前で「診察終わったら連絡して」と言い残し、美香奈を降ろした。