出張最終日の午後。
無事に裁判所への書類提出も終え、美香奈は予定通り東京行きの電車に乗り込んだ。
キャリーケースは小ぶりなもの、手には茨城で見つけた素朴なクッキーの詰め合わせ。パッケージには、レトロなイラストの猫が描かれている。
(なんだかんだ、疲れたな……)
電車の揺れが心地よく、帰路はほとんど眠って過ごした。
自宅に戻ると、スーツを着たままベッドに横になり——そのまま眠ってしまった。
はっと目を覚ましたときには、もう外は少し暗くなっていて、部屋には人の気配。
——玄関から、靴を脱ぐ音が聞こえた。
寝ぼけた頭を引きずるようにして玄関まで歩くと、涼介が革靴を靴箱にしまっているところだった。
スーツのジャケットを脱ぎかけのまま、顔を上げてこちらを見た彼は、ふっと優しく微笑んだ。
「美香奈、おかえり」
その何気ない言葉が、どうしてだろう、やけに胸に染みた。
「……涼介くん、おかえり」
そう答えた声は少しかすれていて、自分でも驚いた。
涼介はそのままリビングへ向かい、スーツを丁寧にハンガーに掛けながら言う。
「疲れたでしょ。今日、お寿司でも取ろうか」
美香奈は「うん」と頷いたけれど、その後の数秒、言葉が続かなかった。
リビングの床、何もないそこをぼんやりと見つめながら、心の中では妙な緊張がぐるぐると巡っていた。
(なんか……ばれそう)
直感だった。明確な根拠はない。
でも、あの日のことを話していないこと、自分の胸の奥で燻っている罪悪感——
涼介の視線が自分をまっすぐ見つめたら、たぶんもう隠し通せない気がしていた。
(……やっぱり、話すべきかな)
けれどまだ、口を開くことはできなかった。
その静けさの中で、キッチンに向かった涼介が「ビール冷えてるよ」と言ってくれる声が、どこまでも優しく響いていた。
無事に裁判所への書類提出も終え、美香奈は予定通り東京行きの電車に乗り込んだ。
キャリーケースは小ぶりなもの、手には茨城で見つけた素朴なクッキーの詰め合わせ。パッケージには、レトロなイラストの猫が描かれている。
(なんだかんだ、疲れたな……)
電車の揺れが心地よく、帰路はほとんど眠って過ごした。
自宅に戻ると、スーツを着たままベッドに横になり——そのまま眠ってしまった。
はっと目を覚ましたときには、もう外は少し暗くなっていて、部屋には人の気配。
——玄関から、靴を脱ぐ音が聞こえた。
寝ぼけた頭を引きずるようにして玄関まで歩くと、涼介が革靴を靴箱にしまっているところだった。
スーツのジャケットを脱ぎかけのまま、顔を上げてこちらを見た彼は、ふっと優しく微笑んだ。
「美香奈、おかえり」
その何気ない言葉が、どうしてだろう、やけに胸に染みた。
「……涼介くん、おかえり」
そう答えた声は少しかすれていて、自分でも驚いた。
涼介はそのままリビングへ向かい、スーツを丁寧にハンガーに掛けながら言う。
「疲れたでしょ。今日、お寿司でも取ろうか」
美香奈は「うん」と頷いたけれど、その後の数秒、言葉が続かなかった。
リビングの床、何もないそこをぼんやりと見つめながら、心の中では妙な緊張がぐるぐると巡っていた。
(なんか……ばれそう)
直感だった。明確な根拠はない。
でも、あの日のことを話していないこと、自分の胸の奥で燻っている罪悪感——
涼介の視線が自分をまっすぐ見つめたら、たぶんもう隠し通せない気がしていた。
(……やっぱり、話すべきかな)
けれどまだ、口を開くことはできなかった。
その静けさの中で、キッチンに向かった涼介が「ビール冷えてるよ」と言ってくれる声が、どこまでも優しく響いていた。



