パトカーの車内には、エアコンの静かな風と、警官たちの書類をめくる音だけが響いていた。
だが、美香奈の心は静けさとは裏腹に、ざわついていた。
無関係なはずの地方の警察署で、まさか自分の名前が知られているとは――。
居心地の悪さに耐えきれず、美香奈はふと、助手席の警官に問いかける。
「ちなみに……どういう経緯で、私の名前を?」
言った瞬間に後悔が押し寄せる。だが、もはや引き返せなかった。
その警官は一度手元のタブレットを置き、運転席で何かをメモしていたもう一人の警官を一瞥する。
「本部の捜査一課の刑事で……」
と言いかけたところで、美香奈は慌てて口を挟んだ。
「あっ、だ、大丈夫です。なんとなく……思い出しました」
とっさの遮りだった。だが、それはかえって警官の好奇心を刺激したようだった。
彼はにやりとしながら、軽く首を傾ける。
「なんとなく……なんですか? 彼女さんだと伺いましたけど」
その瞬間、美香奈の顔に血が上るのを自分でも感じた。
(やばい、完全に墓穴……)
取り繕うように、口元を引きつらせた笑みを浮かべる。
「神谷さんって……有名人なんですね、警視庁で」
すると、助手席の警官は、作業を止めることなく、ちらりと美香奈に視線を向ける。
「そうそう、神谷さんね」
名前を出すことにわずかな間を置いたその姿に、美香奈は一瞬、はっとする。
彼が涼介の名前を自分から言わなかったのは、警察官としての節度――職業的なプロ意識の現れだった。
そのことに気づいた美香奈は、ますます気恥ずかしさと同時に、涼介がどんな場所でも信頼を得ていることへの誇らしさを感じずにはいられなかった。
(……もう、どこに行っても“神谷涼介の彼女”なんだな、私)
気まずさと、それでもどこかくすぐったいような感情を抱えながら、美香奈は視線を窓の外に向け、深く息を吐いた。
だが、美香奈の心は静けさとは裏腹に、ざわついていた。
無関係なはずの地方の警察署で、まさか自分の名前が知られているとは――。
居心地の悪さに耐えきれず、美香奈はふと、助手席の警官に問いかける。
「ちなみに……どういう経緯で、私の名前を?」
言った瞬間に後悔が押し寄せる。だが、もはや引き返せなかった。
その警官は一度手元のタブレットを置き、運転席で何かをメモしていたもう一人の警官を一瞥する。
「本部の捜査一課の刑事で……」
と言いかけたところで、美香奈は慌てて口を挟んだ。
「あっ、だ、大丈夫です。なんとなく……思い出しました」
とっさの遮りだった。だが、それはかえって警官の好奇心を刺激したようだった。
彼はにやりとしながら、軽く首を傾ける。
「なんとなく……なんですか? 彼女さんだと伺いましたけど」
その瞬間、美香奈の顔に血が上るのを自分でも感じた。
(やばい、完全に墓穴……)
取り繕うように、口元を引きつらせた笑みを浮かべる。
「神谷さんって……有名人なんですね、警視庁で」
すると、助手席の警官は、作業を止めることなく、ちらりと美香奈に視線を向ける。
「そうそう、神谷さんね」
名前を出すことにわずかな間を置いたその姿に、美香奈は一瞬、はっとする。
彼が涼介の名前を自分から言わなかったのは、警察官としての節度――職業的なプロ意識の現れだった。
そのことに気づいた美香奈は、ますます気恥ずかしさと同時に、涼介がどんな場所でも信頼を得ていることへの誇らしさを感じずにはいられなかった。
(……もう、どこに行っても“神谷涼介の彼女”なんだな、私)
気まずさと、それでもどこかくすぐったいような感情を抱えながら、美香奈は視線を窓の外に向け、深く息を吐いた。



