【番外編】イケメン警察官、最初から甘々でした。

騒動がようやく落ち着いた頃、カフェの出入口から別の2人の制服警官が現れた。

制服の胸元には「茨城県警察」と刺繍されている。
その姿を見て、美香奈は椅子からすっと立ち上がり、深々と頭を下げた。

「お騒がせして申し訳ありませんでした」

丁寧な所作に、先頭にいた若い警官はほんのわずか驚いたような表情を見せたあと、穏やかな声で返す。

「いえ、こちらこそ。お怪我がなくて何よりです。調書を取らせていただきますので、お名前とご連絡先だけお願いできますか?」

美香奈は慣れた手つきでバッグから名刺ケースを取り出し、1枚抜いて差し出す。
「橋口美香奈」と印字された名刺には、小さく事務所名と「司法書士」の肩書きが添えられていた。

警官はそれを受け取り、目を落とした瞬間、わずかに動きが止まった。
だが次の瞬間には何事もなかったかのように顔を上げ、「お預かりいたします」と、両手で丁寧に受け取る。

「少々お時間頂戴しますので、車の中でお待ちいただけますか?」

美香奈は軽く頷き、誘導されるままパトカーの後部座席に腰を下ろす。助手席では、もう1人の警官が書類を整理しながらタブレット端末を操作していた。
しばらく沈黙が続いたのち、その警官がふと、美香奈に視線を向けて口を開いた。

「人違いだったら申し訳ないんですけど、橋口さんって、警視庁の警察官に知り合いとかいたりします?」

思いもよらぬ言葉に、美香奈は一瞬目を見開き、反射的に表情を整える。

「え……はい、まあ多少は」
笑みを保ったまま、言葉を濁す。
「どうしてですか?」

助手席の警官はタブレットから目を離さずに答えた。

「いや、実は僕、警視庁からの人事交流で今こっちに出向してるんですよ。見たことある名前だなって思って……」

その言葉を聞いた瞬間、美香奈の背筋を冷たいものが駆け抜けた。

(まずい……!)

顔には出さず、「あー、そうなんですね。珍しいですね、そんな交流があるなんて」と笑顔で返す。
だが内心では、涼介の顔が真っ先に浮かび、思わず唇をかみそうになる。

(この人経由で誰かにバレて、変に話が回ったら……)

焦りを押し隠しながらも、美香奈は落ち着いた態度を崩さず、処理が終わるのをじっと待った。
まるで、パトカーの中だけが異空間になったような時間が、静かに流れていくのだった。