夜の静けさが部屋を包む中、美香奈はリビングでソファに腰掛け、珍しく事務所の弁護士と電話をしていた。少しだけ仕事の顔をのぞかせるその声音は、落ち着いていて柔らかい。
涼介は、そっと足音を忍ばせながら近づき、美香奈の後ろから静かに手を回した。細い腰に腕を添え、肩に頬をぴたりと寄せる。
美香奈は驚くでもなく、回された手にそっと自分の手のひらを重ねる。
「出張ですか?……大丈夫ですよ。公判前手続きですね……はい、それでは失礼します。」
電話を切ると、美香奈は涼介に背中を向けたまま、どこか優しくからかうように言った。
「どうしたんですか?お巡りさん。」
涼介は少し間を置いて、「出張……?」とつぶやいた。
「うん、三日間だけ。明後日から行ってくるね。」
美香奈がそう答えると、涼介は子どもみたいに「だめ」と小さく笑いながら言った。
その響きに美香奈もつられて笑ってしまう。「本当に最近、嫉妬がすごいね。」
「だって……美香奈、どんどん綺麗になってく。どっか行っちゃうんじゃないかって、心配になるんだよ。」
少しだけ真剣な声音だった。
美香奈はその言葉に、一瞬言葉を選ぶように黙り、やがて穏やかな声で応えた。
「そんなわけないでしょう。だって、涼介くんこそ、観閲式すごくかっこよかったくせに。」
「……あれは、制服がかっこよかっただけだよ。」
そうはぐらかす涼介に、美香奈は微笑んだまま、静かに首を振った。
「違うよ。スーツ姿の涼介くんもね、周りの人は警察官って気づかない。それが私にとってはすごく嬉しいの。」
言葉を選びながら、少し恥ずかしそうに、それでもまっすぐに言う。
「だって、交番のときは“みんなのお巡りさん”なんだもん。制服を着てなければ、“私だけのお巡りさん”だって思えるの。」
涼介はその言葉に何も返さず、ただ腕の力をぎゅっと強めた。
抱きしめるその腕に込められた想いは、不器用で、でも確かに深く、美香奈の胸にやさしく響いた。
涼介は、そっと足音を忍ばせながら近づき、美香奈の後ろから静かに手を回した。細い腰に腕を添え、肩に頬をぴたりと寄せる。
美香奈は驚くでもなく、回された手にそっと自分の手のひらを重ねる。
「出張ですか?……大丈夫ですよ。公判前手続きですね……はい、それでは失礼します。」
電話を切ると、美香奈は涼介に背中を向けたまま、どこか優しくからかうように言った。
「どうしたんですか?お巡りさん。」
涼介は少し間を置いて、「出張……?」とつぶやいた。
「うん、三日間だけ。明後日から行ってくるね。」
美香奈がそう答えると、涼介は子どもみたいに「だめ」と小さく笑いながら言った。
その響きに美香奈もつられて笑ってしまう。「本当に最近、嫉妬がすごいね。」
「だって……美香奈、どんどん綺麗になってく。どっか行っちゃうんじゃないかって、心配になるんだよ。」
少しだけ真剣な声音だった。
美香奈はその言葉に、一瞬言葉を選ぶように黙り、やがて穏やかな声で応えた。
「そんなわけないでしょう。だって、涼介くんこそ、観閲式すごくかっこよかったくせに。」
「……あれは、制服がかっこよかっただけだよ。」
そうはぐらかす涼介に、美香奈は微笑んだまま、静かに首を振った。
「違うよ。スーツ姿の涼介くんもね、周りの人は警察官って気づかない。それが私にとってはすごく嬉しいの。」
言葉を選びながら、少し恥ずかしそうに、それでもまっすぐに言う。
「だって、交番のときは“みんなのお巡りさん”なんだもん。制服を着てなければ、“私だけのお巡りさん”だって思えるの。」
涼介はその言葉に何も返さず、ただ腕の力をぎゅっと強めた。
抱きしめるその腕に込められた想いは、不器用で、でも確かに深く、美香奈の胸にやさしく響いた。



