日曜の午後、春の陽が差し込む静かな部屋の中。
ソファに座る美香奈の膝の上には、神谷涼介の頭がすっぽりと収まっていた。

「……ん」

短く声を漏らしながら、涼介が少し体勢をずらす。
でも、顔は相変わらず無表情。
目元ひとつ動かさず、ただ黙って天井を見ていた。

美香奈はそんな彼の髪を、指先でそっと梳く。

さらり、さらりと。
柔らかくて、意外にも整えられた髪。
警察官という職業柄、短めではあるけれど、指先を滑らせるたびに彼の無防備さが胸にくる。

「ねえ、涼介くん」

「……」

返事はない。でも、聞いていないわけじゃない。

髪を梳かれるリズムに合わせて、ほんのわずかに瞬きのペースが落ちている。
彼の“無表情”にも、慣れてきた。

「そのまま寝ちゃうの?」

すると涼介は、少し間を置いて、ぽつりと口を開いた。

「……このまま寝る」

その声もまた、表情を含まない静かなトーン。
でも――

(あれ?)

耳が、少しだけ赤い。
美香奈はそれに気づいて、思わず笑いそうになるのを堪えた。

無表情で「寝る」と言いながら、顔はまったくリラックスしていない。
むしろ、照れているのをどうにか押し殺しているようにも見える。

「じゃあ……もっと気持ちよくしてあげる」

そう言って、美香奈はさらにやさしく、ゆっくりと彼の髪を撫で続けた。
言葉にせずとも伝わる安心感が、この空間にだけ流れている。

そして涼介は、ほんの少しだけ目を閉じ――
耳元が、ますます赤く染まっていった。