美羽が送ってきたリンク。
モニターの画面を見た瞬間、
舞花は言葉を失った。

「……椎名さんが、優勝?」

《GARDEN AWARD 2025 優勝者発表》 

そこに並んだ名前は、椎名 悠人。
そして、優勝作品の一枚目に映っていたのは──
白いアナベルの咲く、小さな庭だった。
 
呼吸が止まった。
目の奥が、じんわりと熱を帯びてくる。
 
(……あの花……)
 
間違いない。
舞花が庭で「名前知らないんです」と言った、あの花。
 
(あの人……気づいてたんだ)
(ずっと、覚えてたんだ)
 
ぐっと胸が詰まる。
何も言わずに消えた人が、
何も言わずに、ちゃんと前に進んでいた。
 
「……勝ったんだ……」
 
スマホをぎゅっと握る。
 
あの人は、自分の手で、未来を取りにいったんだ。
それも──
きっと、誰よりも悔しくて、誰よりもまっすぐなまま。
 
(私、何やってたんだろ)
 
花を見つけて泣いたあの日から、
ずっとこの場所にいた。何も動けずに。
でも彼は、“想いを形にする人”として、
確実に一歩を踏み出していた。
 
気づけば、頬を伝うものがあった。
 
泣いてるのか、嬉しいのか、悔しいのか。
わからない。でも──
 
「おめでとう……」
 
スマホに向かって、小さくつぶやく。
きっと届かない。
でも、今はそれしかできなかった。
 
(それでも、思ってる)
(やっぱり──会いたい)
 
心の中に、ずっと灯っていた火が、
今、大きく燃え上がる気がした。
 
──知らなかった。
あの名前が、こんなにまぶしく見えるなんて。