「……ってわけで、なんか、距離を取られてる気がしてさ」
アイスラテをストローでいじりながら、舞花はぼそりと漏らす。
カフェの奥の静かな席。
向かいに座る美羽は、まぶたの上にサングラスを乗せたまま、
じっと、舞花を見ていた。
「……は? もう両思いじゃんそれ」
「いやいや、そうなんだけど!」
「いやいやって、なんでそこで“いやいや”なの!? それ、もう椎名さん彼氏になれるじゃん! 」
「でも……お母さんの言葉とか、あったし」
「え、なに? 彼氏の前で“ママがダメって言ってるから……”みたいな? 小学生??」
「違う違う!違うけど!そういうんじゃなくてっ!」
美羽のツッコミが的確すぎて、舞花は思わずテーブルに突っ伏した。
「……でも、たしかに、あの空気はきつかったかも」
「でしょ。線引きってやつね」
「うん。“お願いする側とされる側”って言われて……」
「んで、向こうは真面目だからさ、きっちり線引いてきたんでしょ? 優しさで距離取るタイプのやつだ、それ」
「……うん。わかるんだけど、やっぱりちょっと寂しい……かも」
ふいに、美羽がラテを置いて、少しだけトーンを落とす。
「舞花」
「……ん?」
「それ、落ちたんじゃなくて、自分から飛び込んでるやつだよ」
「……え?」
「好きになったことを“落ちた”って言う人多いけどさ、
本当は、無意識のうちに“この人なら”って思って、足を前に出してんの。
で、気づいた時には、落ちてる──じゃなくて、飛び込んでるの」
舞花は、はっとして美羽を見つめた。
「……飛び込んだ、んだ、私」
「うん。勇気出したんだよ、ちゃんと」
美羽はにかっと笑って、グラスの氷をコトンと鳴らした。
「じゃあ、泳ぎきるしかないっしょ?」
「お、おお……名言ぽいけど、ちょっと雑……!」
「うるさい。乙女の背中は雑なくらいがちょうどいいの」
二人で笑ったあと、
舞花は、少しだけ表情を引き締めた。
「……もう少しだけ、頑張ってみる」
「その顔よ。その顔が、もう“好き”の顔してるんだってば!」
「美羽〜〜〜!」
わちゃわちゃと盛り上がるその空気に、
心の中のもやが少しだけ晴れた気がした。
(……好きって、やっぱりちょっと怖い)
でも。
(“この人なら”って思ったのは、ちゃんと自分なんだ)
次は、ちゃんと顔を見て、話そう。
線なんて引かれても、こっちからまた近づけばいい。
舞花の中に、ちいさな決意が芽生えていた。
アイスラテをストローでいじりながら、舞花はぼそりと漏らす。
カフェの奥の静かな席。
向かいに座る美羽は、まぶたの上にサングラスを乗せたまま、
じっと、舞花を見ていた。
「……は? もう両思いじゃんそれ」
「いやいや、そうなんだけど!」
「いやいやって、なんでそこで“いやいや”なの!? それ、もう椎名さん彼氏になれるじゃん! 」
「でも……お母さんの言葉とか、あったし」
「え、なに? 彼氏の前で“ママがダメって言ってるから……”みたいな? 小学生??」
「違う違う!違うけど!そういうんじゃなくてっ!」
美羽のツッコミが的確すぎて、舞花は思わずテーブルに突っ伏した。
「……でも、たしかに、あの空気はきつかったかも」
「でしょ。線引きってやつね」
「うん。“お願いする側とされる側”って言われて……」
「んで、向こうは真面目だからさ、きっちり線引いてきたんでしょ? 優しさで距離取るタイプのやつだ、それ」
「……うん。わかるんだけど、やっぱりちょっと寂しい……かも」
ふいに、美羽がラテを置いて、少しだけトーンを落とす。
「舞花」
「……ん?」
「それ、落ちたんじゃなくて、自分から飛び込んでるやつだよ」
「……え?」
「好きになったことを“落ちた”って言う人多いけどさ、
本当は、無意識のうちに“この人なら”って思って、足を前に出してんの。
で、気づいた時には、落ちてる──じゃなくて、飛び込んでるの」
舞花は、はっとして美羽を見つめた。
「……飛び込んだ、んだ、私」
「うん。勇気出したんだよ、ちゃんと」
美羽はにかっと笑って、グラスの氷をコトンと鳴らした。
「じゃあ、泳ぎきるしかないっしょ?」
「お、おお……名言ぽいけど、ちょっと雑……!」
「うるさい。乙女の背中は雑なくらいがちょうどいいの」
二人で笑ったあと、
舞花は、少しだけ表情を引き締めた。
「……もう少しだけ、頑張ってみる」
「その顔よ。その顔が、もう“好き”の顔してるんだってば!」
「美羽〜〜〜!」
わちゃわちゃと盛り上がるその空気に、
心の中のもやが少しだけ晴れた気がした。
(……好きって、やっぱりちょっと怖い)
でも。
(“この人なら”って思ったのは、ちゃんと自分なんだ)
次は、ちゃんと顔を見て、話そう。
線なんて引かれても、こっちからまた近づけばいい。
舞花の中に、ちいさな決意が芽生えていた。

