「いいからたまには外の空気吸いなさい! 舞花!」

「吸ってるよ! うちの庭の酸素、超きれいなんだから!」
 
「その“庭で完結”みたいな休日の過ごし方がまず問題なのよ〜!」
 
というわけで、強制的に連れ出された日曜の朝。
舞花は母&妹の梨花と一緒に、近場のアウトレットモールに来ていた。
 
「はいはい、今日の目標は“舞花を女子っぽくするDAY”です!」

「ちょっと梨花、やめて。
この前の“舞花を彼氏と歩いてそうな服に着替えさせるDAY”でトラウマ残ってるから」
 
「え、あのセットアップ可愛かったじゃん!」

「ピンクのフリルブラウスは私のキャパ超えてたのよ!」

「よーし、今日はナチュラル系にしとくから安心して!」

「だから問題はジャンルじゃなくて、“キャラと合うか”なんだってばー!」
 
そんなこんなで、気づけば買い物袋は両手にひとつずつ。
妹のテンションに押されつつ、母もニコニコしていて──
気づけば、自分も笑っていた。
 
(……なんか、ちゃんと笑ってるな、私)
 
最近は出社と在宅を行ったり来たりしてるけど、
気づけば空き時間はいつも庭にいて。
“咲く・咲かない”とか、“気になる・気にしない”とか。
ずっと、ややこしいことばっかり考えてた。
 
でもこうして家族と過ごす時間って、
やっぱり、自分をちゃんと“戻してくれる”。
 
「じゃあ、舞花は帰ったら何着るの?」

「え? 今日? ……庭着」

「またそれ!?も〜〜〜!!」
 
妹にぶーぶー言われながら、
でも舞花の頭の中に浮かんでたのは、庭のあの場所だった。
アナベルは、まだ咲いてるかな。
椎名さん……今日は来てるのかな。
 
(いや、関係ないし。別に)
 
そう自分に言い聞かせながらも、
胸の奥が、なぜかそわそわしていた。
 
気分転換、のはずだったのに。
たった数時間で、“帰りたい場所”ができていたことに気づいてしまった。
 
──やっぱりあの庭は、ただの庭じゃない。
私の、気持ちが動き出す場所だ。