その日は、週のちょうど真ん中、水曜日。
リモートワークの日だった。
午後4時すぎ、ようやくひと区切りついた仕事を一度手放して、
舞花はマグに冷たい紅茶を注ぎ、庭へと出た。
──この家の庭は、とにかく広い。
小さな噴水、梅の木、紫陽花、ローズマリーの香り。
季節によって顔を変えるこの庭が、
わたしの癒しスポットだ。というか、唯一の逃げ場。
「舞花、明日の夜はお父様のパーティに同席してね」
「そのドレス、少し派手じゃない?有栖川の娘らしくしなさい」
家の中では、“有栖川のお嬢様”を演じるのが当たり前。
本音なんて、誰も求めてこない。
だから私は、リモートワークの日の夕方は、必ずここに来る。
白いベンチに腰をおろして、冷たい紅茶をちびちびやりながら、
誰にも邪魔されない静かな時間を過ごすのが、ちょっとした習慣。
「……ふぅ。今日も静かで最高」
そう思った、そのときだった。
──ガサッ。
植え込みの向こうから、枝を踏みならす音。
え、何?猫?いや、人?誰?
と、次の瞬間。
「……そこ、邪魔です」
「……は?」
見上げると、作業服の男が立っていた。
茶色い帽子に軍手、無愛想な顔。
おまけに低音ボイスで、まるで感情ゼロ。
「……あの、私、ここ、いつも座ってるんですけど?」
「今、剪定中なんで。飛びますよ、葉っぱ」
「飛びますよって……ドローンですか?」
「……は?」
軽く睨まれた。
なにその“圧”。こっちはお嬢様だぞ?……たぶん。
「……感じ悪っ」
思わず口から出た本音に、相手は一瞬だけ眉をぴくりと動かしたけど、
何も言わずにしゃがみこむ。
なんかこう、庭の一部に紛れ込んだ石みたいな存在感。
無視して紅茶に口をつけたけど、気になる。
やたら気になる。ていうか、なんかイケメンじゃない?
日焼けした肌と、無造作な黒髪。
いやいやいや、ないない。
口きいてくれないし、笑わないし。
──でも、その人は。
わたしの“静かだった庭”に、突然入り込んできたのだった。
リモートワークの日だった。
午後4時すぎ、ようやくひと区切りついた仕事を一度手放して、
舞花はマグに冷たい紅茶を注ぎ、庭へと出た。
──この家の庭は、とにかく広い。
小さな噴水、梅の木、紫陽花、ローズマリーの香り。
季節によって顔を変えるこの庭が、
わたしの癒しスポットだ。というか、唯一の逃げ場。
「舞花、明日の夜はお父様のパーティに同席してね」
「そのドレス、少し派手じゃない?有栖川の娘らしくしなさい」
家の中では、“有栖川のお嬢様”を演じるのが当たり前。
本音なんて、誰も求めてこない。
だから私は、リモートワークの日の夕方は、必ずここに来る。
白いベンチに腰をおろして、冷たい紅茶をちびちびやりながら、
誰にも邪魔されない静かな時間を過ごすのが、ちょっとした習慣。
「……ふぅ。今日も静かで最高」
そう思った、そのときだった。
──ガサッ。
植え込みの向こうから、枝を踏みならす音。
え、何?猫?いや、人?誰?
と、次の瞬間。
「……そこ、邪魔です」
「……は?」
見上げると、作業服の男が立っていた。
茶色い帽子に軍手、無愛想な顔。
おまけに低音ボイスで、まるで感情ゼロ。
「……あの、私、ここ、いつも座ってるんですけど?」
「今、剪定中なんで。飛びますよ、葉っぱ」
「飛びますよって……ドローンですか?」
「……は?」
軽く睨まれた。
なにその“圧”。こっちはお嬢様だぞ?……たぶん。
「……感じ悪っ」
思わず口から出た本音に、相手は一瞬だけ眉をぴくりと動かしたけど、
何も言わずにしゃがみこむ。
なんかこう、庭の一部に紛れ込んだ石みたいな存在感。
無視して紅茶に口をつけたけど、気になる。
やたら気になる。ていうか、なんかイケメンじゃない?
日焼けした肌と、無造作な黒髪。
いやいやいや、ないない。
口きいてくれないし、笑わないし。
──でも、その人は。
わたしの“静かだった庭”に、突然入り込んできたのだった。

