葉栗 蕾)

 午前中が授業が終わって、教室ががやがやした雰囲気になる。

 昼休み。

 「このキャラ、カッコよくない?身長182㎝の高身長で、ヤバいくらいのイケメンだよ」

 アニメキャラが描かれたファイルを見せながら黄色い声を出す日向ちゃん。

 「ねえ。ちょっと聞いてる?」

 前にもおすすめされたバスケアニメの話。

 人気のアニメで、そのアニメが好きな子はクラスの中でも結構いる。


 もともと全国常連校だったが、今では県大会にすら行けない。そんな高校に、中学で天才と謳われていた選手が入ってくる。名前は、…。ちょっと忘れたけど。まあ、その高校が全国優勝を狙う。

 あらすじは日向ちゃんの話を聞いてる限りこんな感じだ。

 試合の相手校やその高校のOBなど、たくさんのイケメンキャラが出てきて、泣けるシーンもたくさんあって、絶対に見て欲しい。そう、熱弁していた。

 「今週末に見るよ」

 そう、先週も言いながら、見なかったことを思い出す。

 「そう言って、見ないんだから。帰ったら、すぐ見てよ~。頑張れば、1日5話くらい余裕でいけるから」

 「5話はキツイよ」

 「じゃあ、2話」

 「う~ん。多分頑張る」

 「絶対だからね」

 チャイムが鳴って、昼休みが終わる。


 次の授業は移動教室で理科。

 日向ちゃんと理科の持ち物を持って、廊下に出た。

 「待ってよ」

 同じ卓球部の舞が日向ちゃんに飛びついた。

 日向ちゃんと私は舞繋がりで仲良くなった。日向ちゃんと舞は、もともと同じ小学校で、そこに部活で舞と親しくなった私が加わった感じだ。

 と言っても、舞も日向ちゃんも私も、このメンバーだけと親しくするわけじゃない。

 みんな、広く浅い。

 1人2人しか友達がいない子なんて、重いから関わりづらい。って、周りから思われてる。

 舞は面白いから、無理をしなくたってたくさん友達ができる。日向ちゃんは頭がよくて、気遣いができるから、たくさん友達が寄ってくる。
 
 でも、私には人と違う恵まれてる長所なんてないから、自分を抑えて相手に合わせるしかないんだ。

 授業が終わって、部活の時間になる。

 私が入っているのは、2年生5人、1年生3人の緩めの卓球部。

 大体、全員が集まったら挨拶をする。そして、3チームに分かれて球出しをやる。それが終わったら、もう自由。個人個人の気分次第でラリーをしたり、そのまま終了まで話して過ごしたりって感じ。

 ちょっとの球出しもめんどくさいらしい。同じチームの子に聞くと、「やっといて」と返された。
 
 1年生の2人に球出しをして、ネットを片付ける。

 片づけを終わらせると、卓球台を1年生に譲って、舞と部長の未南ちゃんで話してるところに合流する。

 「マジで、あの歌いいよね」

 「だよね。わかる」

 「○○って、歌?いいよね」

 舞の、昨日見た動画の歌がよかったっていう話らしい。

 私は、その歌はあんま好みじゃない。だけど、わざわざ話に入って、そこを告げて空気を悪くする意味なんかないから。好みじゃないけど、「いいよね」って言う。

 どうせ、会話なんてそんなもんだ。

 でも、舞が私の立場だったら。

 考えたところで意味はないけど、思ったままに「あんま好きじゃない」って言うんだろうな。それを言っても、舞なら「魅力を分からないなんてもったいない」。そんなところで終わるけど、私だと、そう「そうなんだ」って、気まずくなる。

 これは、ただの積み重ねだから、別にどっちが悪いってのは、ないけど、なんだか自由な舞を羨ましく思う。