「今日は、予定があるので研究会、お休みします」

 グループチャットの方に、メッセージを打ち込む。


 今日は、家に母が来る。今日は私の誕生日だから。
 
 久しぶりだから、ちょっとしたわくわく感がある。

 せっかく来てくれたのに、怒られないよう、床に散らばっている物を片付けた。

 
 4時を過ぎたころ。

 呼び出し音が鳴って、母がやって来た。

 小さい頃からタンじょびにケーキを買っていた、行きつけのお店のショートケーキ。そして、母の手作りのお惣菜。

 「ありがとう」

 渡されたそれらを受け取る。

 ケーキの箱を開けて、6等分をして、2つをお皿に乗せる。

 「こっち、食べなよ」

 母が、大きい方を譲ってくれる。

 「ん」

 フォークを手にし、ケーキを食べ始めた。


 母のケーキが残り一口になったところで、母が話し始めた。

 「大学はどう?」

 「勉強は難しいところもあるけど、楽しいよ」

 自意識過剰。そう思われたくなくて、家族なのに、当たり障りのないことを言う。

 「芽生が所属してた研究会。えと、昆虫研究会はどうなの?」

 研究会に入った時、つい、飛び上がって報告したから言わずもがな、これを聞かれる。

 言いたかったことを、聞いてくれたことに、少し安心をする。

 「昆虫に関する新聞をみんなで作ったりとか、昆虫を飼ったりとか、楽しいよ。あと、中学生の子とこの頃、帰り道で若葉さんと一緒だけど、会うようになったよ」

 「中学生?どんな子なの?」

 「昆虫が好きな子だよ。ちょっと道で知り合ったんだけどね、足が速くて、大人っぽくて、けど優しい子だよ」

 「そうなの。よかったわね」


 5時の少し前に母が帰ることになった。

 「駅まで送ろうか?」と提案したが、アパートの近くの友達の家にも寄るらしい。

 「じゃあ、また来るわね」

 家から帰る母を玄関で見送った。