失うものは何もないんだし。
どうせ明日、
この世にいないんだし。
私が死んだことに気づいてくれた人に
迷惑をかけないよう、
部屋のもの、
主にごみを全部捨てた。
もともと大きな家具はなかったから、
掃除はすぐに終わった。
『まだ無事な』Tシャツと短パンを探しだして急いで履く。
家の鍵は大家さんの家のポストに入れておいた。
8月の夕暮れ時、
私はぼろアパートにさよならを言った。
*
で、とりあえず、
100万ほど借金をして、
サロンやら高級ブランド店を回って、
身なりを整えてみたんだけど…
すごい!
人ってこんなに変われるの?!
子供の頃からお下がりのボロ服で、
髪はボサボサ、大人になっても
化粧もほぼしてなかった私。
トイレの姿見に映った自分が信じられない!!
誰これ!!?
さらさらの明るいアッシュブラウンの髪!
西洋人みたい!
自然なブラウンのカラコンに、
K-POPアイドルみたいなメイク!
今まで近づくこともなかった超有名なブランド店で
全身コーディネートしてもらったら、
まるで雑誌のモデルみたいになった!
自分で言うのもなんだけど。
生まれて初めてかもしれない。
自分を肯定できたのって。
さーて…
まずはどこに行こうか…
入ったことのないお店に行きたい。
普段の私なんかがいたら場違いな所だけど、
この姿なら違和感がなさそうな所…
クラブとか!
いいね!クラブ!
ちょっと行ってみたかった!
ネットで治安の悪そうなクラブを発見!
ここにしよう。
もう、我を忘れるくらいはっちゃけて、
0時になったら、向かいのビルの屋上から飛び降りよう!!
決まり!
その後、クラブで飲んで踊って、
色んな人に声をかけられて…
…………
……………
だめだ。
やっぱりその後のことは思い出せない。
なんで天国ではなくて、
こんな高級マンションの一室にいるのか…



