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私は直前まで行こうか迷ったが、川本さんの連絡先を知らないため、結局、指定された時間に湊川田公園にきていた。
(今は20時ちょうどか)
スマホで時間を見てから辺りを見渡すが、まだ川本さんは来ていないようだ。
「実果ちゃん、お待たせー」
その声に振り返れば、川本さんが駆けてくる。
「ううん、いまきたとこだから」
「良かった。じゃあ《《奥の公園》》の方いこっか」
「あ……奥までいくの大変だし手前の遊具あるとこでも桜見れるからそっちにしない?」
手前の公園なら広く遊具もあり、花見客も多いが奥の公園は桜の木が一本しかなく、墓地と併設してるため花見の時期ではなくても夜は人気がない。
「えー、奥の桜だったら二人占めできるじゃん」
「でも……」
「ほらほら行こっ」
躊躇う私を気にする素振りもなく川本さんは私の腕を持つと奥の公園へとまっすぐ進んでいく。
(まさかあのこと知らない?)
(同じ高校でそんなことあるのかな……)
私はそんなことを考えながら川本さんのどうでもいい話に相槌を打ちながら、十五分ほど歩き、奥の公園に辿り着く。
公園といっても桜の木が一本と古いベンチがあるだけだ。街灯が何本か立っていて桜の花が夜の闇に白く浮かび上がっている。
ただ美しいとは思わない。
どちらかといえば、その夜に紛れた桜の花が悲鳴をあげて泣いているように見えるのは、やはりあの記憶のせいだろう。



