花明かりのタイムカプセル

川本さんは私を強く揺さぶった。

「自分が何したかわかってる?! この人殺し!」

(人殺し……)

その言葉に私は少し違和感を感じる。

確かに咲良の死のキッカケは私だが、私の心は咲良のせいで死んだ。

──私だって死んだのだ。


「なんとか言いなさいよ! あんたのせいで咲良は死んだんだよ!」

咲良は死んだ。そんなことわかっている。


私は桜の木をそっと見上げる。咲き誇る桜をやっぱり綺麗だとは思わない。

名は体を表す、なんて言葉があるように桜をみれば私は咲良を思い出すから。

「ちょうど……一年くらいだね」

私は花明かりを見上げながら、白い花弁の仄かな輝きを見つめた。

約一年前──咲良は正式に大賞を取り消され、大学の推薦も撤回され家から出られなくなった。やがてSNSを中心とした誹謗中傷に耐えきれず自ら命を絶った。

私は咲良の代わりに推薦で希望の大学に入り、盗作も認められて特待生になれた。

でも満たされなかった。咲良の死を聞いた時、私の心も死を迎えた。
それ以降、何も感じなくなった。


「ねぇ、川本さん。だって仕方ないじゃない。無いものはずっと無いの。だから誰かから奪うしかなかった」

自分でも驚くほど冷静に吐いた言葉に温度はない。

咲良が死んだあの日から私はきっと人間じゃなくなった。

息をしてるけどいつも息苦しくて、何を食べても味を感じなくて、夜はまともに眠れなくなった。

元々、才能のない私には思うような魅力的で斬新な絵を描けるわけもなく、母の入院費用を稼ぐ為にパパ活にも手を出した。


「川本さんが本当のこと、知ってくれててなんかホッとした」