「ドンマイ」
ポンッと、伊月の肩に手を置く。
「そ、そんなっ!僕を見捨てないで下さいよ!」
「は?見捨てるに決まってんだろう」
「即答!?」
桃に立ち向かえって?
無理。あたしはまだ死にたくねぇよ。
「お願いです!僕はまだ死にたくありません!」
「あたしもだよ」
「桃くんの機嫌を直すには海さんの存在が必要不可欠なんです!僕じゃサンドバッグくらいにしかなりません!」
「いいじゃん、サンドバッグ」
それこそ桃には必要不可欠だと思うけど。
流石持つべきものはいつも一緒のサンドバッ…、じゃなくて幼馴染みだな。
「そんなこと言わずにお願いします!一生のお願いです!僕を助けると思って!」
「………」
「海さん!僕を見捨てないで下さい!」
「………」
「この通りです!」
「……貸し一つだからな」
「はいっ!!」
決して人間サンドバッグの伊月を不憫に思ったからではない。
このままだと迫り来る恐怖から発狂した伊月がフローリングの廊下に頭を擦り付ける勢いで土下座しかねないので致し方なくだ。こんなところで悪目立ちなんて絶対にしたくない。
「桃」
名前を呼ぶと、桃はビクッと肩が跳ねてゆっくりと振り返った。
「ここまで案内してくれてありがとう。助かった」
「え、ぁ………うん」
あたしの言葉が意外だったのか桃の反応はイマイチだった。
「今日は久しぶりに倉庫に顔出すけど、桃はどうする?」
「ぼ、僕も行くよ」
「じゃあ帰りにアイス買って行こう。桃アイス好きだったでしょう?」
途端、桃の顔にパァッと花が咲く。
アイスは桃の大好物だ。
これに食い付かないはずがない。
何せ桃は倉庫にいる時いつも必ずと言ってアイスか苺ミルクを飲んだり食ったりしているから。糖尿病まっしぐら間違いなしだが、今はそれについてはスルーしよう。
「うんっ!大好き!海ちゃんのこともだーい好き!」
「あっ、どさくさに紛れて抱き付くな!海から離れろ!」
「きっこえなーい」
どうやらすっかりいつもの桃に戻ったらしい。
これで伊月もサンドバッグにされずに済むだろう。
それから桃は伊月と共に自分達の教室へと戻って行った。
「帰りは迎えに行くからね!」と大声で叫ぶ桃にあたしは小さく手を振った。

