紅い蝶の見る夢




「海、久しぶりの学校はどうだった?」



……何、突然。



「どうって、言われても…」



返答に困る。



「楽しかったかい?」

「……別に」



楽しいか楽しくないかと問われれば決して楽しくはなかった。
入学早々問題を起こしたあたしの存在は予想以上に周囲に知れ渡っていて今日だけでもあちこちで色んな噂を耳にした。アイツはヤクザの子共だとか、目が合ったら殺されるとか…。



―――化け物。



あたしを白い目で見るのは構わない。昔からそう言うのには慣れている。
でもそれによって恋ちゃんやあの人に迷惑が掛かるのであればあたしは学校なんて行かなくていいと思っている。やめるべきか…、実は密かに考えていた。あたしにとって学校とはその程度のものだった。



「俺は海が南城のこと知らな過ぎてビビったけどな」

「まあ、海さんは登校してまだ二日目ですから」

「でも“朱雀”を知らないとか酷過ぎるだろう」

「マジかよ!逆にスゲーな!」

「仕方ないじゃん。“朱雀”なんて初めて聞いたし、会ったのだって今日が初めてなんだから」

「え?会ったって…」

「……海ちゃん、もしかしていっちゃんに会ったの?」

「いっちゃん?此花なんとかになら会ったけど?」



フルネームは忘れた。



「此花祈織だ。さっき紹介しただろうが」

「一回しか会ってないのに覚えられるわけねぇだろうが」

「ああ、バカだからか」

「誰がバカだ!」



一度ならず二度までも人のことバカにしやがって。いや、そもそも一度や二度の話じゃない。だからムカつくんだよ。
佐倉は顔を合わせる度に人をバカ呼ばわりしてはあたしを挑発する。よくもまあ飽きもせずにご苦労なことで。お前はバカの単語しか知らねぇのかよ、このバァカ。生徒会長の名が聞いて呆れるぜ。



「ちょ、ちょっと待て!此花祈織と会ったっていつ会ったわけ?どこで?」

「昼だよ。場所は旧音楽室ってところ」

「何でそんなところに行ったんだよ!?」

「別に理由はないけど、偶々…」



あれは本当に偶然だった。
廊下を歩いていたら綺麗な音が聞こえて来て、自分でもよく分からないけど気付いたらあそこで暢気に音楽鑑賞していた。



……いや、本当は分かってる。

何であそこに逃げ込んだのか、その理由も。



でもそんなこと今はどうでもいい。



忘れろ。

思い出すな。思い出すならもっと別の…。



『―――おい』



肌に突き刺さる心地良い、殺気。
あれを「心地良い」なんて思う自分は傍から見れたら異常なんだろう。警戒されても仕方ないか。



「知らなかったんだよ、此花があんなところにいたなんて」



知ってたら絶対に行かなかった。



「あー…」

「そう言えば海ちゃんにはちゃんと説明してなかったかも」

「説明?何の?」



ガシガシと、頭を掻きながら口ごもる尚哉と「ごめんね、言い忘れちゃった」とぶりっ子しながら謝るふりをして誤魔化そうとする桃にあたしは話に付いていけなくて首を傾げた。



「あそこはね、旧音楽室って言って“朱雀”専用の場所なの。うちで言うここみたいな溜り場ってこと」

「溜り場?」



あそこが?



「見えないでしょう。でも旧音楽室は防音設備もバッチリだから扉を閉めてさえすれば音が外に漏れることはないから安心なんだよ」

「だから学校側も“朱雀”の存在を頭ごなしに否定出来ねぇわけ」

「進学校はそう言うの煩ぇもんな」

「それに“朱雀”には長い歴史がありますからその分学校側からも信頼されているみたいですよ」

「歴史?」

「確か…、創立してから20年くらい経ってるんじゃないかな」

「そんなに…」



つまり親父が“朱雀”を創ったのは約20年前。
別に親父のことなんてどうでもいいけど“朱雀”についてはちょっと知りたいと思った。
一応自分が通ってる学校のことだし知っていて損はないだろう。



「まあ、元々“朱雀”は“四神”の中でも穏健派で通ってるしな。学校側としちゃこれほど扱い易い問題児はいないだろうよ」

「何それ?喧嘩しないってこと?」

「喧嘩しないことはないけど滅多なことがない限り抗争まで発展しないね」

「でもそれは今までの“朱雀”だろう。此花の代になってどうなることやら」

「この間も新入生が間違えて旧音楽室に入って気合入れられたらしいですよ」

「ふーん…」



つまりあたしは土足で敵の陣地に踏み込んたってわけか。



……ん?

あれ、ちょっと待てよ。