それから総長は何故かあたしの頭を撫で回しながら笑っていた。
この人、絶対あたしのことペットか何かだと思ってるよ。
「……うざい」
「ふむ、それは今流行のツンデ…「じゃねぇよ」
あたしは総長の手を振り払って顔を背けた。
そんなあたし達のやり取りを見ていた面々が再び口を開く。
「あーあ、嫌われちゃったねあーちゃん」
「おや、そうなのかい?」
「だ、大丈夫ですよ総長!今のは海さんお得意の照れ隠しですから!総長の気持ちはきっと海さんに伝わってるはずです!」
「適当な解釈すんじゃねぇよ。処すぞ」
「ヒェェ〜!すいませんんん〜!」
「てか、いくら総長でも気安く海に触んないでよ。俺の海なんだから」
「誰がおま…「「お前のじゃねぇよ」」
「こう言う時だけ結託すんな!腹黒コンビ!」
「くくっ、ブレねぇなオメー等も」
「はぁ…(血縁者だと思われたくない)」
そんなくだらないやり取りを横目に総長は終始笑みを崩すことなく歩き出すと、5人掛けの大きなソファーの奥にある玉座とも言える1人掛け用のソファーに身体を沈めた。黒色のソファーに総長のサラサラと揺れる金髪がよく映える。
「マジで王様みたい…」
無意識に出た言葉だけど本人には聞こえてないだろう。
もし本人に聞かれていたら「ふふっ、そうだろうそうだろう!存分に僕を褒め称えてくれて構わないよ!何せ僕は“B2”のトップ…、つまりキングだからね!これから僕のことはキングアゲハと呼んでくれたまえ!」とか言ってまたナルシスト発言しそうだから絶対に言ってやらないけど。
「しっかし喉乾いたな。確か冷蔵庫に冷やしてたコーラあったよな?」
「それならこの前姫ががぶ飲みしたからもうないよ」
「マジかよ」
「何故か苺ミルクならここに…」
「あー!それは僕の!ヒーくんにはあげないよ!」
「いらねぇよ。苺ミルクなんて甘過ぎて飲めねぇわ。他には何かねぇの?」
「コーヒーと紅茶なら常備してあるけど」
「それは総長と冠葉用だろう」
「買って来ますか?」
「あー…自分で行くの面倒臭ぇから下の奴等に頼んで来るかな」
「僕は紅茶の気分だよ!ささっと入れてくれたまえ頼稀!勿論…「アッサムのストレートでしょう。分かってますよ」
「コーヒー」
幹部室の中央で存在感を示す大きめのソファーに座る面々は口々に勝手なことを言いながら寛いでいた。
緊張感の欠片もないその光景にあたしは自然と目を逸らしていた。
『海の拳は仲間を傷付けるためにあるのかい?』
総長の言葉にあたしは拳を納めた。
力が抜けたと言った方が正しいかもしれない。
(仲間、ね…)
総長はよくその単語を口にする。
佐倉に負けてここに連れて来られた時もそうだった。
初めてその言葉を聞いた時はイライラし過ぎて鼻で笑ってやったのを覚えてる。
でもそんなあたしに総長は言った。
『―――君にも何れ分かる時が来るさ』
怒ってるわけでも呆れているわけでもない、まるで小さな子供に言い聞かせるような優しい声色に思わず毒気を抜かれた。
分かるわけない。お前にあたしの何が分かる。そう言って汚い言葉でズタズタに傷付けてやりたかった。
でも言えなかった。何も言い返せなかった。それはあの時、あの瞬間、初対面の総長にあの人の面影を見たからだ。あたしを拾ってくれた人。あたしに生きる意味を与えてくれた人。あたしを全ての柵から解放してくれる人。そんなあの人と同じようなことを言う総長の言葉を否定してはいけないと思った。お陰で佐倉への反抗心は削がれ何だかんだ言いつつも今日まで“B2”の紅蝶として総長の庇護下で生かされている。だからと言って“B2”である彼等を受け入れたわけではない。佐倉があんなこと言わなければ絶対に“B2”になんか入ってないし、暴走族のくせに仲間とか絆とか目に見えないものを重視する彼等はあたしにとって害悪でしかなかった。
だからね、あたしは今でも彼等の求める仲間ってのがよく分からないんだよ。

