あたしが背後にいる尚哉に気を取られていると、不意に横から手が伸びて来た。
「ねぇ、今話してるのは僕でしょう。尚哉じゃなくて僕を見てよ」
「っ、」
気付けば向かいに座っていたはずの桃があたしの左隣のソファーに座っていた。
桃は両手があたしの頬を優しく包み少しずつ自身の顔を近付けて距離を縮めて来る。
「ちょ、まって…っ」
桃は可愛い。仕草もだけど何より顔立ちが可愛い。下手したら女のあたしよりも女に見えるかもしれない。
「海ちゃん…」
だからってそれとこれとは話が別だ。
いくら女に顔を近付けられても何とも思わないけど、桃は正真正銘の男で何より顔が良い。
イケメンに耐性があるあたしでも突発的なことには対応出来ずどうしたらいいのか分からなかった。
「はな、れ…「ストップ」
その声と同時に背後から抱き込まれたあたしは咄嗟に顔を上げてその名前を叫んだ。
「尚哉っ!?」
「チッ」
至近距離から聞こえた舌打ちにブルッと身震いする。
もうブラック桃じゃなくてデビル桃に改名した方がいいと思うんだけど。
「何ちゃっかり顔近付けてるわけ?人が話してる時に横から茶々入れるなんてマナーがなってないんじゃない?」
「先に喧嘩売って来たのはそっちでしょう?それに僕と海ちゃんの会話に割り込んで来たのもお前な。僕はまだ海ちゃんから返事をもらってないんだから会話は継続中なんだよ」
「海がアンタと話したくなさそうだったから助け舟を出してやったんだよ。そんなことも分からないの?」
「ハッ、何様のつもりだよ?海ちゃんの彼氏にでもなったつもり?ウケるんだけど」
「そっちこそ海に煙たがられてるって気付いてないの?頭ん中お花畑かよ」
「あ?お前誰に喧嘩売ってるか分かってんの?」
「勿論宮地さんにですよ〜」
あたしを挟んでバチバチと火花を散らす2人に呆れて言葉も出ない。
「はぁ…」
くだらない。毎回やってて飽きないのかね。
仲良くなれとは言わないけどあたしを巻き込むのだけはやめてくれ。後処理が面倒だから。まあ、こう言う時のサンドバッグなんだけど。
「伊月」
「な、何ですか、海さん?」
ササッと、伊月は桃と尚哉に見つからないように素早くあたしの右隣のソファーにやって来た。ビビリ過ぎだろう。
「よし、サンドバッグ出番だぞ」
「サンドバッグを名前みたいに言わないで下さいよ!しかも出番ってどう言うことですか!?」
「責任持ってこれをどうにかしろ。アンタは桃のサンドバッグなんだからせめて主人だけでも引き取って」
「で、でも、桃くんも尚哉くんも海さんが原因で喧嘩してるわけですから僕の責任ではないような…」
「アンタがあの時助けなかったからだろうが!」
「そ、そんなこと言われてもぉおお〜!」

