紅い蝶の見る夢




「あ、そうそう。勿論分かってると思うけどこれで許したわけじゃないからね♡」



うん、知ってた。
だって未だに笑顔が胡散臭いんだもん。
本当どうにかしてくれよ、この悪魔。



「一緒にコンビニ行ってアイス買おうって約束したよね?忘れちゃったの?」

「それならちゃんと買って冷凍庫に…」

「僕は海ちゃんと2人でコンビニデートしてアイスを買いたかったの!」



さいですか。
結局アイス買うならどっちでもいいじゃん。
そもそもデートじゃなくて買い出しのつもりだったんだけど。



「何で僕が迎えに行くまで待っててくれなかったの?それとも何か用事があって先に倉庫に来たの?」

「それは…」



言えない。言えるわけがない。
ヒロと顔合わせるのが気まずくて教室を飛び出した挙句、佐倉の挑発に乗ってキレ散らかしたなんて意地でも言いたくなかった。



「ねぇ、何で?」



でもそんなしょうもないこととは露ほども知らない桃は向かいのローテーブルに両肘を付けて上目遣いであたしを見つめる。このぶりっ子め。
そんな桃からフイッと視線を逸らすと。



「ふーん、そんなに言いたくないんだ…」



スッと、桃のまん丸な目が細められた。
やっと諦めてくれたと思い肩の力を抜いた瞬間、あたしの期待は見事に打ち砕かれた。



「でも話してくれるまで逃がさないからね♡」



やっぱり桃は悪魔だった。
誰だ小悪魔なんて可愛いものに例えた奴は。←
よし、こうなったら伊月にサンドバックになってもらおう。伊月なら桃を受け止められるはずだ。
埒が明かないやり取りを早く終わらせるべく伊月へと視線を送るが、伊月は真っ青な顔でブンブンと左右に首を振って拒否しやがった。



(ダメだ、こりゃ…)



完全に下僕化している伊月から視線を外して隣にいる尚哉をジッと見つめる。「助けて」なんて口が裂けても言いたくないので口ではなく目で訴え掛ける。
するとあたしのSOSに気付いた尚哉は何を思ったのかニヤリと口元を歪めてムカつく笑みを浮かべた。その顔は明らかに何か企んでる顔だった。



「そう言えば俺も理由は聞いてなかったな」

「……言ってねぇからな」

「何で?何か言えない理由でもあるわけ?」

「別にそう言うわけじゃないけど…」



ここで「言いたくない」と言ってしまったらこれ以上の追及が待ってるのは目に見えてる。だから下手なことは言わない。適当に誤魔化して話を逸らすしかない。だから適当な話題を振ろうと視線を上げた時、いつの間にか尚哉の顔が至近距離にあって驚いた。



「じゃあ何?俺にも言えないこと?」

「っ!?」



尚哉はあたしの背後からソファーの背を乗り越えてあたしの耳元で普段と違う声を出す。
ムズムズする感覚が背筋を這い咄嗟に耳を隠して尚哉を睨み付けた。



「っ、アンタね…」

「ん?」



尚哉は意地の悪い笑みを浮かべたまま首を傾げる。
尚哉は鋭い奴だ。きっとあたしが言いたくないことにも気付いてるし、その理由についてもある程度予想が付いているだろう。だからこそ質が悪い。だって尚哉は調べようと思えば何でも知り得る立場にいる。それをあたしの口から言わせようとするなんて…、本当良い性格してるよ。