「海ちゃん、スマホ貸して!」
それだけ言うと桃はあたしのブレザーのポケットに手を入れて目当てのものを探し始めた。
いつもなら文句の一つくらい言うところだけど、桃がいつも以上に強引になる時はブラック桃の兆しだからあたしは黙って桃のやりたいようにさせてやった。触らぬ神に祟りなしだ。
「海、スマホって言うのはこう言う長方形で薄っぺらい…」
「知ってるわボケ。喧嘩売ってんのか?」
「あ、知ってたんだ(笑)。じゃあ使い方が分からないから未だにガラケーなわけ?おばあちゃんじゃん」
「誰がババアだ。アンタこそガラケーの使い方分からないからってあたしを勧誘すんじゃねぇよ。ガラケー舐めんな」
自分が少数派だと言うことは自覚済みだ。でも初めて携帯を持たされた時からずっとガラケーだし、携帯に必要な機能は通話とメールとインターネットだけだから態々本体代が高いスマホに変える必要性が見つからなかった。今使っているのが壊れない限りずっとこのままのつもりだ。
桃はポケットの中から携帯電話を見つけると今度はあたしの了承なしに勝手に操作し始めた。
おいおい、何やる気だよ…。いくら桃でも勝手に弄られて壊されたくないんだけど。
流石に壊れたら新しいものを買わなくちゃならないし、諸々の手続きが面倒だから変えたくないってのが本音だった。
見兼ねた伊月がやんわりと注意するが。
「も、桃くん、それは流石に…」
「うっせー!ヘタレ野郎は黙ってろ!」
「ごめんなさぃぃいいいい!!」
桃の怒声に反射的に謝る、伊月。
そんな伊月を内心不憫に思ったのは言うまでもない。
相変わらず仲が良いのか悪いのかよく分からないコンビだ。
あ、でもさっき巻き込まれないように避難してたから自業自得?因果応報って奴かも。
不意に携帯電話を操作する桃の手がピタッと止まった。
「……海ちゃん、これはどう言うこと!?」
そう言って桃はディスプレイに表示された電話帳をあたし達の目前に晒した。
「どうって?」
「何で“B2”で登録してるのがあーちゃんとサクちゃんと尚哉だけなの!?僕のは!?」
「だって桃とは部隊が違うから連絡取り合うことないじゃん」
「じゃあ尚哉は!?他の2人は分かるけど何で別部隊の尚哉の連絡先が入ってるわけ!?」
「それは尚哉が勝手に登録しただけ。あたしだって必要ないと思ってるよ」
「必要だっただろう。何せ海は俺の世話係だったんだからな」
「まあ、そう言う時もあったけど…」
「海さんの電話帳は必要最小限って感じですね」
「何それ!それって僕の連絡先は海ちゃんに必要ないってこと!?初恋拗らせてるツンデレ我儘チェリーボーイの方が海ちゃんには必要だって言いたいわけ!?」
「ヒェッ、何もそこまで…「誰がチェリーボーイだ!拗らせてんのはアンタも一緒だろうが!」
「だから僕をお前と一緒にするなって言ってんの。例え拗らせてても僕はお前みたいに子供っぽいやり方で海ちゃんの気を引こうとは思わないし、自分の欲求に素直に従って正攻法で攻めてくつもりだからね」
「単に我儘なだけじゃねぇか!」
「僕は嘘が吐けない素直な性格だからね。でもツンデレよりはマシでしょう?」
「自分で言うな!」
「(どっちもどっちだと思うけどな…)」
「(どうでもいいからとっとと解放してくれ…)」
「と言うことで海ちゃん!僕の連絡先も登録してね!」
「は?」
連絡先?まさか自分の連絡先が登録されてないから今までゴネてたわけ?
うわぁ、面倒臭ぇ。仮にもあたしより年上なんだからそんなことで拗ねるなよ。小学生のガキじゃあるまいし。
「……登録しても連絡するとは限らないよ?」
「じゃあ僕から連絡するね!海ちゃんは電話派?それともLIME派?」
「LIMEって何?メールしかやったことないんだけど」
「あ、そっか。ガラケーだからLIMEは出来ないのか。じゃあメールにするね。最低でも1日1通はメールするからちゃんと読んでね」
「そんなにっ!?待って!あたし自分で言うのも何だけどかなりの面倒臭がりだから毎回は返信出来ないよ!それでもいいの!?」
「出来ないんじゃなくてしないの間違いだろう」
「いいよ」
「いいの!?」
「だって僕が一方的に連絡したいだけだもん。そんな僕に毎回返信してたら大変だから海ちゃんは気が向いた時にだけ返事頂戴よ。あ、でも送ったメールはその都度ちゃんと読んでね?そのつもりで送るから」
「まあ、それなら…」
「やったー!ありがとう海ちゃん!早速尚哉の連絡先消して僕の入れとくね!」
「はぁ!?何で俺の消す必要があるんだよ!?」
「目障りだから」
「清々しく暴言吐くな!!」
「はい、登録完了!今度は僕にも忘れずに連絡してね!」
「う、うん…」
念のために桃から返してもらった携帯電話内のデータを確認すると本当に尚哉の連絡先だけ消されていた。しかも過去の履歴まで徹底的に。
改めて桃のしつこさと面倒臭さと恐ろしさを実感させられた瞬間だった。

