紅い蝶の見る夢




海Side





「何で先に帰っちゃったの!?一緒に帰ろうって約束したじゃん!」

「だからごめんって…」



東都双児区の街外れの埠頭に今では使われずにそのままの状態で放置されている倉庫がいくつも立ち並ぶ。その中でも一番大きくて奥まった場所にある倉庫を“B2”の溜り場として利用していた。
コンクリート造りの3階建ての倉庫の屋根には「B-2」と大きく表記されているため航空写真で確認すると一発でここが“B2”の拠点だと分かるらしい。そのため1階の出入口付近や倉庫周辺には“B2”の人間が交代で24時間警戒に当たっている。
倉庫内は1階をバイク置き場兼作業場として利用し、最奥にある階段を上ると2階が蛹部屋、3階が副隊長以上の者しか立ち入ることが出来ない幹部室となっている。
倉庫はコンクリート造りのためどんなに騒いでも音が外に漏れる心配はない。また街外れの埠頭と言う点でも近隣に民家や公共施設がないので時々迷い込んで来る浮浪者を除けば無闇に近付く者はいなかった。



「教室に迎えに行ったらもういないし、尚哉に聞いたら帰ったとかほざくし!」



つまり桃の甲高い声が外に漏れることはなく、例え漏れたとしても第三者が助けに来てくれることは絶対にないのだ。



「僕迎えに行くって言ったよね?ちゃんと大きな声で聞こえるように叫んだんだから聞こえなかったわけないよね?それなのに何で先に帰っちゃったのかな〜?」



幹部室の中央にある2台の5人掛けのソファーにそれぞれ座るあたしと桃。正面から突き刺さる非難するような視線に顔を伏せる。
こうなった時の桃はしつこい。しかも本来の性格なのかネチネチと笑顔で攻撃して来る。質が悪い。でも何より質が悪いのは下手に言い返したら逆ギレした桃が“ブラック桃”になりかねないので逆らうに逆らえないと言う点だ。だからこう言う時は反省したふりをして右から左へ受け流すに限る。この苦行が早く終わりますようにと願いを込めて。
そんなあたしと桃のやり取りを尚哉と伊月は他人事みたいな顔をして遠巻きに眺めていた。
この2人に助けを求める気はない。だって癪だから。でも俺関係ないですみたいな顔は腹立たしいから後で一発殴らせてもらうつもりだ。



「海ちゃん、ちゃんと聞いてんの!?」

「聞いています…」



ああ、頼むから早く終わってくれ。
これ以上桃のキンキンした声を聞いてると発狂しそうだ。



「大体何で尚哉には先に帰ること伝えたのに僕には何も言ってくれなかったの!?」

「いや、それはだって…」

「だって?何?」

「そ、その…、桃のケー番知らないし…」



その言葉に桃はカッと目を見開いて心底驚いた顔を見せた。
瞳孔が開いててちょっと……いや、かなり怖いよ。可愛い顔が台無しだ。



「ぷっ、ダッサ」

「あ゛ぁ!?」

「ヒェッ!僕は何も言ってないよぉ〜!」



今のは完全に尚哉が悪い。
態と挑発してどう言うつもりだ?責任取るつもりもないくせに。
中途半端に煽るくらいなら最後まで責任持ってどうにかしろよ。伊月を盾にしやがって。
真っ青な顔して冷や汗を流しながら全力で否定する伊月の後ろでゲラゲラと腹を抱えて爆笑する尚哉に当事者ではないが殺意が湧いた。