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屋上を占領する赤の制服を纏った5人の男子生徒。
見るからに不良児の風貌に身体や顔の真新しい傷跡のアクセントが一際目立つ。
「漸くお出ましか」
その中の1人、煙草を靴底で揉み消す赤髪の少年は金網のフェンスを握り締めながらグラウンドを横断する黒髪の少女に向かって言葉を吐き捨てた。
その目付きは険しくまるで親の仇でも見るような憎悪の籠った鋭い視線を少女に向けながら額の古傷を指でなぞる。
「中町、これからどうすんだよ」
「あの女のせいでこっちはかなりの戦力減らされてんだぞ」
「暫くは動かねぇ方がいいんじゃねぇの?」
「うちの戦力立て直さねぇとまた同じことの繰り返しになるんじゃないか?」
中町と呼ばれる赤髪の少年は仲間達の言葉にピクッと眉を顰める。
「あ?」
中町はフェンスから離れたかと思えば地べたに座り込む仲間の1人の胸倉の掴み自身の険しい顔を近付けて牽制する。
「何腑抜けたこと言ってんだテメー等。あの女に良いようにやられて悔しくねぇのか?」
「そ、そりゃ悔しいけどよ…」
「でもよ…」
「あ?でも何だよ?もういっぺん言ってみろよ!」
興奮状態の中町が仲間の1人に手を上げようとした時、緑頭の少年が中町の振り上げた腕を片手で受け止めて仲裁に入る。
「落ち着け中町。悔しいのは皆一緒だ。でもこれまで通り襲撃しても効果があるとは思えない。それだけじゃない。今はあの女1人だが何れ“B2”全体が動く可能性だってあるんだぞ。もしそうなったら俺達じゃ対処出来なくなる。そもそもあの人自身が乗り気じゃないからうちの戦力は半減してるようなもんだしな…。その辺のこともちゃんと分かってやってんのか?」
「ハッ、誰に物言ってんだよ」
緑頭の少年の言葉に渇いた笑みを漏らす中町は先程よりも幾分か落ち着いた様子を見せ、目の前の玩具に興味が失せた子供のようにポイッと仲間の胸倉から手を離した。
「千家、俺はこう見えても参謀だぞ。お前等の頭脳だ。こうなることくらい初めから想定済みだ」
「想定済みだと?ここまでこっちの戦力潰されて手も足も出せないこの状況をお前は初めから分かってたって言うのかよ?」
「勿論全てじゃない。トップがいないこの状況でNo.2がやられたのは痛かったさ。その上あの女は常に男を侍らしていたからこっちの手持ちが減るのも早かったからな。本来なら短期決戦が理想だったがこうなったら遅かれ早かれ“B2”が動くのは確実だ。だから別方向から探ってみたんだよあの女の弱点をな」
「弱点?」
中町以外の4人は互いに顔を見合わせて思考を巡らす。
しかし彼等が答えに辿り着く前に中町は言葉を続けた。
「この俺が何のために1ヶ月も無駄に時間を浪費したと思う?着々と準備は進めているさ」
「じゃあ何で今になってそれを…」
「物事には順序ってもんがあるんだよ。まあ安心しろよ。こっちには頼りになる協力者もいるし万が一の時のためにちゃんと切り札も用意してるから」
協力者とは誰なのか、切り札とは何なのか、千家達は何も聞かされていなかった。
頭を使うことよりも腕っ節に自信がある千家には薄ら笑いを浮かべる中町の考えが分からなかった。ただ今この場でその話をした理由が何かあるのだろうくらいにしか思っていなかった。
他の仲間達と比べて付き合いの長い千家は中町の優秀な頭脳に一定の信頼を置いていた。中町はかつて東日本最強と言われた“百鬼夜行”の幹部の目に留まり直々に手解きを受けたほどの実力者だ。そんな中町の存在があったからこそ自分達は“百鬼夜行”の群れに加わることが出来たのだと一種の洗脳のように思い込んでいた。本人にもその自覚があるのだろう。昔に比べて言葉の節々に横柄な態度が見受けられるがそれでも能力がある故仲間達は中町の言葉を無視することが出来なかった。上に立つ者としてその姿は間違いではない。しかし今回の中町の言動に千家は危うさを感じていた。紅蝶を倒すことだけに執念を燃やすその姿は麻薬に溺れる中毒者のように見えた。古傷が痛むのか中町は頻りに額に触れていた。
「さあて、どう罠に誘い込むかな…」
中町の作戦が吉と出るか凶と出るか、それは誰にも分からない。
それでも中町の言葉に従って蝶狩りに繰り出すのは千家が本来持つ破壊衝動故の本能だった。

