「海…?」
透明感のあるブルーアッシュに、あたしだけを映す大地色の鋭い瞳。
あたしは突如目の前に現れた男―――佐倉冠葉の登場に驚きを隠せなかった。
「な、で…」
でもあたしの小さな呟きは此花の声によって掻き消された。
「どうされたんですか、冠葉さん?」
………ん?
冠葉さん?
え、何、この2人知り合い?
「いや、大したことじゃない。今度の体育祭のことで“朱雀”に頼みたいことがあったんだが…」
「何でしょう?冠葉さんの頼みでしたら何でもやります」
さっきまであたしにガン飛ばしてた男はどこへ行ったのやら、此花の変わりように喉の奥がヒクついた。
キャラ変し過ぎだろうコイツ。
「それについてはまた改めて訪ねる。それよりも…」
ギロッと咎めるような厳しい鋭利な眼差しがあたしへと向けられる。
幾度となく浴びせられたその視線にすっかり慣れっこになってしまったあたしは負けじと目を細めて佐倉を睨み付けた。
「海、ここで何をしている?」
「アンタには関係ないでしょう。用がないなら話し掛けるな」
「用ならある。ずっとお前を捜していたんだ」
「は?」
無駄に顔が良い佐倉から目を瞑ってさえいればうっとりするような甘い台詞が囁かれた。但しあたしには効果がない。寧ろそのスカした顔にイライラする。
「この1ヶ月倉庫にも顔出さないでどこに行っていた?」
「どこだっていいだろう」
「良くない」
ピキ、と顳顬に青筋が浮かぶ。
即答すんな。お前はどこの小姑だ。こう言う面倒な奴がいるから晩婚化とか少子化とか騒がれるんじゃないの?
あたしは結婚してないからよく分かんないけど佐倉の兄弟は大変だろうな。まあ、兄弟がいるかどうかも知らないけど。
「勝手に街に出て暴れてたそうだな」
「ハッ、街で暴れんのにアンタの許可が必要なわけ?」
「許可を取れと言ってるんじゃない。連絡しろと言ってるんだ」
「連絡?」
「この1ヶ月何の連絡も寄越さないでどこで何をしていた?こっちからの連絡も無視してただろう?」
「気付かなかったんだよ」
「嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐け」
(分かってるなら聞くな)
佐倉の言う通りこの1ヶ月“B2”のメンバーからの連絡を無視していたのは確かだ。でも全てを無視していたわけではない。総長と副総長からのメールにはちゃんと返信していたし、尚哉からのメールもしつこかったから1通くらいは返したと思う。完全に無視したのは佐倉だけ。勿論態と無視した。気付かなかったわけではない。でもそれについて咎められる謂れはない。いくら佐倉に対して報告義務があるからと言ってもこちらとしては報告することなど何もなかったのだから連絡もクソもないだろう。だって佐倉が送って来るメールの内容の殆どが「どこにいる?」「誰と一緒だ?」とか心配性の母親みたいな内容のものばかり。しかも佐倉の場合は空気を読まず平気で電話まで掛けて来るから鬱陶しくて仕方なかった。“B2”に関係あることならまだしもそれ以外のことについて報告する義務はない。そもそもあたしが佐倉の連絡を無視するのは今更だ。“B2”に入って数ヶ月が経つが、これまで佐倉と連絡を取ったのは片手で数えるほどしかないのだから。
「……誰といた?」
「は?」
「街で暴れてた時、一緒に行動していたのは誰なんだ?」
「………」
ああ、そう言うことか。
読めたぞ。
桃といい、尚哉といい、どいつもコイツも考えることは皆一緒だな。
「人を勝手に裏切り者扱いしてんじゃねぇよ」
大方あたしがどこぞの誰かと密会して“B2”の情報を流したと思ってるんだろうけど、残念でした。
あの人はそんなんじゃないし“B2”なんて眼中にないだろう。ましてや“B2”の情報を流したところであたしには何の得にもならないと言うのに。
ふざけんな。
あたしを見縊るな。
―――なんて、普通なら怒るところだろうけど。
「は?」
佐倉の人を小バカにするような表情に怒りなんて一気に吹っ飛んだ。
いや、正確に言えば違うものが沸々と湧き上がって来た。
「裏切り?……バカか。お前は何を勘違いしてんだ?」
カッチーン。
「誰がバカだクソ小姑野郎。バカって言った方がバカなんだよ。知らねぇのか?あ?」
「バカにバカと言って何が悪い。ガキみたいなことを言うな」
「二つしか違わねぇくせに年上ぶって偉そうに説教垂れてんじゃねぇよ!」
「説教じゃない、正論だ」
「どこが正論だ!?人をバカにすんのも大概にしろよ!」
「そうやってすぐ頭に血が上って癇癪を起こすところがガキだと言ってるんだ。それと話を逸らしても無駄だぞ。お前が俺の質問にちゃんと答えるまで逃さないからな」
「逸らしてんじゃなくてテメーが喧嘩売って来たんだろうが!」
クッ、ダメだ。
佐倉を相手にするといつも調子が狂う。
落ち着け。落ち着けあたし。
佐倉のペースに飲まれるな。
耐えろ。耐えるんだ。
佐倉の挑発なんて無視だ、無視。
「ガキか」
無 視 だ !!

