紅い蝶の見る夢




「そう言うわけだから昼飯はまた今度ってことで。ごめんね」

「……何で頭を撫でる必要がある?」

「好きでしょう、こう言うの」

「うざい、触るな」

「はいはい。じゃあ夜には倉庫に戻るから続きはまた後でね」

「何だよ続きって?」

「続きは続きだよ」



そう言って意味深な笑みを残して瀬戸は1年の教室を出て行った。
しかもファンサービスとか言ってクラスの女子に投げキッスを送りながら。気色悪い。
しかしあたしの心情とは裏腹に教室内にピンク色の悲鳴が鳴り響くこととなった。解せん。



「やっと帰ったか」



尚哉は耳から手を離して態とらしく溜息を吐いた。
あたしは瀬戸にぐちゃぐちゃにされた髪を直すために一つに結んでいた髪ゴムを取った。



「アイツ結局何しに来たわけ?彼女自慢?」

「ア◯パンマン自慢されても羨ましくねぇけどな」

「確かに。慈悲深い女神だったら会ってみたかったけど」

「女神…?」

「きっと日下部さんに会いたかったんッスよ。日下部さん、最近は倉庫にも来てなかったじゃないッスか。だから寂しかったんだと思います」

「何それ。ガキじゃあるまいし」

「梓さんだけじゃないッスよ。他の幹部の方々だって日下部さんがいなくて物足りなさそうでしたし」



ヒロは瀬戸が出て行ったドアを寂しそうな目で見つめていた。
主人の帰りを待つ犬じゃあるまいし何もそんな顔しなくても良いのに…、そんなことを考えてるとヒロの視線があたしへと向けられた。



その瞬間、何かに飲み込まれる感覚に陥った。





『―――紹介するね』





「、」



咄嗟にヒロから視線を逸らす。
ヒロの真っ直ぐな言葉と絆されそうになる優しい笑顔は今のあたしにとっては毒でしかない。





『私の恋人の…―――』





甘くて、優しい毒。

それはあたしの思考を麻痺させる猛毒のようだ。



「あ、日下部さん!」

「海っ!?」



あたしは逃げるように教室を飛び出した。
後ろの方で尚哉とヒロの声が聞こえたけどそれでも無視して走り続けた。



ヒロが嫌いなんじゃない。

ヒロが悪いんじゃない。



じゃあ何で…―――。





『宜しくね、海ちゃん!』





ああ、だからあたしはヒロの目が見れないのか。



嫌いなんじゃない。

ただあの瞳と被るんだ。



あたしから大切な人を奪った、あの女と。