海Side
「海っ!!」
ハッと、耳元で叫ぶ尚哉の声に意識が覚醒する。
それと同時に先程までの光景が夢であったことを理解した。
(嫌な、夢…)
昔の夢を見た。
あたしの生涯で一生の汚点。
後悔ではなく自分自身が情けないあの頃の自分がそこにいた。
今思い返しても胸糞悪い。普通だったら時間が経てば忘れられるはずなのに、この感情は時間が経つにつれて徐々に膨らんでいくように思えた。最悪だ。
「おい、海ってば!いい加減起きろよ!」
耳元で煩い。
何度も言わなくても起きてるわ。
あたしは起きていることを証明するために机に伏せていた顔を上げると、そこにはここにいるはずのない人物の顔が至近距離にあって驚いた。しかも目を瞑って唇を突き出しただらしない顔で。ホラーか。
「ビーッチちゃん、起きないとチューしちゃうぞー……痛っ!!」
「起きてるわボケ」
「痛ってて…。何も本気で抓ることないじゃん」
「本気で右入れてやろうか?」
「うっそ!お願いだから顔だけはやめて♡」
「キモイ」
「相変わらず寝起き悪いな」と言葉を漏らす尚哉を横目に、あたしは語尾にハートマークを付ける目の前の男を下から睨み付ける。
「ビッチちゃん、寝不足?」
「……うっさ」
男の名前は瀬戸梓。
シルバーアッシュのツーブロックに目元の黒子が印象的な妖艶さを纏う美形で、この容姿や先程の言動からでも分かるように自他共に認めるチャラ男だ。あたしにはどう見てもホストにしか見えないが、年齢を聞いたところちゃんと未成年で現役の男子高校生だった。つまり老け顔と言うことだ。そう言うことにしておこう。
そして何を隠そうこの男もあたし達同様“B2”の幹部で遊撃部隊の隊長でもある。
「はっはーん。さてはビッチちゃん夜遊びし過ぎてお疲れだな。相手は噂の馬の骨くん?」
「だったら何?」
「毎晩お盛んなことで。ビッチちゃんも隅に置けな……ぐはっ!!」
「いっぺん死んで来い」
「だから言ったじゃん、寝起きの海にちょっかい出すなって」
しかもあたしを“ビッチ”と呼ぶ変態野郎だ。
これが桃の直属の隊長なんて信じられない。……いや、桃も似たようなものかもしれない。
「おはようございます、日下部さん!」
ほぼ初対面だと言うのすっかりこの空気に溶け込んでいるヒロに寝惚けながらも感心する。
ただこの声、この顔。
どこかで見たことがあるような気がする…。
「日下部さん…?」
「あ、いや…、何でもない。おはよ…」
そう言ってあたしはヒロから視線を逸らしたが、目の置き場に困ったので仕方なく尚哉と瀬戸に視界に入れた。
「おはようって時間じゃねぇよ。もう昼過ぎてんだからな」
「もうこんな時間だしこのまま昼飯食いに行かない?」
「賛成。勿論瀬戸さんの奢りですよね?」
「俺はレディにしかご馳走しません」
「レディ…?(嫌悪の眼差し)」
「く、日下部さん、流石にその顔は…」
「ふふっ、そう言う顔も堪んないね。クセになりそう」
「変態が」
「あ、警察ですか?うちの学校に変な性癖を持つホスト崩れが女子生徒を物色していてとうとう被害が…」
「言葉責めってこと?なーんだ、やっぱりビッチちゃんって普段はツンツンしてるけど実はドM…「言葉を慎め変態クソ野郎。サツじゃなくて総長に通報すんぞ?」
「慎みまーす」
この口だけ野郎が。毎度毎度調子良いことばっか言いやがって。
この男は本当に信用ならない。無駄に笑顔で饒舌な時は特にそうだ。
顔が良い上に口も上手いからその辺の女子達はコロッと騙されてるようだが、お生憎様あたしはそんな偽物の笑顔に騙されるほど愚かじゃないんだよ。

