紅い蝶の見る夢




「海っ!?」



目の前の赤メッシュの髪を触っていると突然尚哉に手首を掴まれた。



「……何?」



耳元で煩い。



「何じゃない!何でいきなりヒロの頭撫でてんだよ!?」

「無意識」

「自分で言ってる時点で無意識じゃねぇから!」

「ああ、もう煩ぇな。何となくだよ何となく」

「何となくで気安く男に触んな!懐くな!気を許すな!」

「懐いてねぇよ」

「懐いてんだろう!犬撫でんのとわけが違うんだぞ!」

「だから懐いてねぇって言ってんだよ!しつけぇな!」

「しつこくない!いいか、俺は海に友達候補を紹介したのであって彼氏候補を紹介したわけじゃねぇんだからな!」

「どっちも頼んでねぇんだよ!余計なお世話だ!」



尚哉に掴まれた手を強引に振り解くと、尚哉はあたしからヒロへと標的を変えた。



「お前も!」

「は、はいッス!」

「いいか、海に頭撫でてもらったからって、同じ特攻だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ?海は俺のなんだか…「誰がお前のだボケ!」



ダンッと、机を叩いて椅子から立ち上がる。
するとどこからか「ヒィッ!!」と悲鳴のような声が聞こえて来た。



「く、日下部さん、尚哉さん、落ち着いて下さいッス!皆が怯えてるッスから!」

「「あ?」」



ヒロの言葉に周囲を見渡すと、真っ青な顔をして教室の隅で固まるクラスメイト達の姿があった。



……そこまで?

普通に言い合いしてるだけなんだけど。



「あー…とりあえず座るか」



ポリポリと頭を掻く尚哉にそう言われて渋々席に着くとあることに気付いた。
右隣と前の席が空席。………まさか。



「アンタ達の席は?」



嫌な予感がする。

二つの空席とあたしに纏わり付く尚哉とヒロの顔を交互に見ながら恐る恐る尋ねると。



「俺はこっちッス!」

「俺はここ」



そう言って尚哉はあたしの前の席に、ヒロは右隣の席に座った。



「最悪…」



微かな希望は見事に打ち砕かれた。本当に最悪だ。



「何?俺が近いと不満?」

「うん」

「即答すんな!」

「だってアンタ煩いんだもん。睡眠妨害」

「寝る前提かよ。言って置くけど海がそうさせてんだからな」

「人のせいにすんな」

「確かに今日の尚哉さんはいつも以上に声を張り上げてるッスね。これも日下部さん効果ですか?」

「迷惑」

「そこまで言うか!?」



その後、授業開始のチャイムが鳴っても先公は一向に姿を見せなかった。
これではいつまで経っても授業が始まらない。始まったとしても集中して机に座ってられる気はしないが、せめて学校に来た意味を見出したいと思うのは自分よがりな考えだろうか。



(だりー…)



雨のせいか頭も痛い。
全てに対してやる気が起きない。
5月病とはよく言ったものだ。本当その通りだよ。



「寝よ…」



こう言う時は寝る一択。それしかない。
そうと決まればスクールバッグを枕に机に顔を伏せて目を瞑る。
頭上から聞こえる二つの声は無視することにした。