「で、何でアンタはコイツをあたしに紹介したかったわけ?」
チラッと横目でヒロを捉えながら尚哉を問い質す。
「だって海友達いないじゃん」
「は?」
喧嘩売ってんのか?
尚哉だけには言われたくない。
「あ、今“俺だけには言われたくない”って思っただろう?」
「思った」
「俺って海の中でどんだけ友達いないキャラなわけ?」
「“友達なんていらない”って言ってたのはどこのどいつだよ」
すると無駄に元気のいい声が横から割り込んで来た。
「あの、日下部さん違うんッス!俺が尚哉さんに頼んだんッス!日下部さんにちゃんと挨拶させて下さいって!」
「……何で?」
別にいらないんだけど。
「さっきも言いましたけど、俺は日下部さんに憧れて“B2”に入ったんッス。だから特攻に入れてもらえた時は嬉しくて…。日下部さんは覚えてないかもしれないですけど、日下部さんと話すのはこれが2回目なんッスよ」
「2回目?」
「日下部さんが覚えてないのも無理ないッス。初めて話したのは俺が特攻に入った当初で、ペーペーの俺は自分の名前を名乗るので精一杯でしたから。日下部さんもさっきみたいに“……どうも”って言うだけできっと俺のことなんか眼中になかったと思います」
「あー…」
否定出来ない。
正直ヒロのことを認識したのは今日が初めてだった。
しかも過去に言葉を交わした記憶すらない。
特に印象に残らない顔ってわけでもないのに(寧ろ見るからに好青年で顔も整ってるのに)本当に他人に興味ないんだなあたしは。
「いいんッスよ、気にしないで下さい。あの時の俺には日下部さんと話す資格すらなかったんッスから」
シュンッと、まるで子犬のように項垂れるヒロの姿になけなしの良心がチクチクと胸を攻撃する。
本来あえるはずのない三角の耳とふさふさの尻尾まで元気なく下がっているように見える。疲れてるのかな。
「でも、俺頑張ったんッスよ!まだまだ幹部になれる器じゃないですけど蛹のリーダーにも抜擢されたッス!日下部さんに認めてもらいたくて、日下部さんの隣に立っても恥ずかしくない俺になりたくて…」
ああ、動物虐待で訴えられないだろうか。
そもそも同じ人間とは思えないほど純真無垢なんだけど。
ピュアピュアのピュア過ぎて正面から顔が見れない。後ろから後光が差してるんじゃないかってくらい眩しい。
やっぱり犬?それとも仏様とかそっち系?
どちらにしても初めてお目に掛かるタイプの人型わんこだった。
だから自分でも気付かないうちに絆されていたのかもしれない。
「だから今度はちゃんと日下部さんに俺のこと知ってもらいたいんッス!」
「……はい」
降参の意味を込めて手を上げると、ヒロは嬉しそうに顔を綻ばせて小さな声で「やった」と言葉を漏らした。
(単純な奴…)
見た目通りの奴だと思った。
単純そうで、バカっぽくて、誰にでも愛想を振り撒く犬みたいな奴。
動物は飼ったことないから扱い方なんて分からない。
だから何が正解で何が間違っているのか分からないけど。
「―――…え?」
ヒロの目の前にそっと手を出すと、ヒロは驚いたようにパッと顔を上げてあたしを見つめた。
驚愕の色を浮かべる瞳の中にはほんの少しの期待が見える。
本当犬だな。
単純で、忠実で、それでいて自分が傷付くことも厭わない愚人。
「宜しく」
「っ、」
でも存外悪くないと思う自分がいた。
あたしもあの人の前ではこんな感じなんだろうか。

