「あ、あのっ、俺ヒロって言います!“B2”の特攻で4月から蛹のリーダーを任されてるッス!」
「……どうも」
自分のことをヒロと名乗った彼は黒髪に紅色のメッシュを入れ、鼻の上に絆創膏を貼った一見バ……頭の悪そうな男だった。
尚哉に名前を呼ばれて駆け寄って来る姿はまるで犬のよう。でも犬は犬でも彼もあたし同様“B2”に飼われている飼い犬だ。その証拠に左耳に光る紅い蝶が羽を休めていた。
「てか、蛹って何?」
「はぁ?そんなことも知らねぇのかよ。他所様のチームじゃなくて自分のところだぞ」
「煩ぇよ。とっとと説明」
「蛹は幹部以下のメンバーの総称だよ。ヒロは蛹のリーダーで俺達幹部との連絡係みたいなもん」
つまり次期幹部候補。
だからあたしに紹介したわけか。
「俺、ずっと日下部さんのファンで!日下部さんに憧れて“B2”に入ったんッス!」
ヒロは頬を紅く染めながらそう言った。
ヒロは社交辞令で言ったのかもしれないが、ファンとか憧れとかそんなこと言われても全然嬉しくない。寧ろ反吐が出る。
「へー…」
あたしに憧れて“B2”に入ったなんてどうかしている。
自分で言うのも何だがあたしは他人に好かれるような人間ではない。口は悪いし性格は悪いしおまけに短気だからすぐに手が出る欠陥品だ。
特に“B2”が支配する街で日下部海に好意的な人間はまずいない。何せやりたい放題暴れまくって“B2”の連中に目を付けられたくらいだ。街の人間にとってあたしの存在は目の上のタンコブ。排除したくても自分達ではどうすることも出来ない粗大ゴミ。それをお人好し集団である“B2”が仕方なく引き取ったに過ぎない。
反対にあの人が支配する街―――白羊においてはそれなりに人気があるようだ。但し人気があるのは日下部海ではなく“カイ”の方だけど。
“B2”に入る前、あたしはカイの通り名で主に東都の白羊区を中心に活動していた。勿論慈善活動なんかではない。ただのストレス発散、つまり好き勝手に暴れる場所として白羊を選んだのだ。その理由はあの人の存在が大いに関係しているが今は一先ず置いておこう。
東都では白羊内に留まらずカイに憧れる奴は多い。相手が女であろうと容赦しない派手な喧嘩スタイルが世間の注目を浴びたんだと思う。不本意だけど。
でもそれはあたしであってあたしではない。もしカイではなく“海”と名乗っていたら世間はどう言う反応を示しただろうか。
(どうでもいいか、そんなこと…)
因みにあたしがカイの通り名で暴れていたことを“B2”の連中は知らない。
その事実が露見しようとあたし的にどうでも良かったが、あの人から正体を隠すように言われているので一応あたしがカイであることは“B2”には秘密にしている。
だからいくら桃や尚哉に尋問めいたこと言われてもあたしが“馬の骨”の正体について口を割ることは絶対にない。それを言ったら一発であたしがカイだとバレてしまう。

