「相変わらず喧しいコンビだな」
あたしが桃と伊月を見送る横で尚哉は壁に寄り掛かって腕を組んでいた。
「自虐?それアンタと桃のこと言ってんの?」
「まさか。あの主従コンビのことに決まってんだろう。いくら海でも俺とあの人をセット扱いすんのはやめろよな」
「元はと言えばアンタのせいだけどね」
「だって俺あの人嫌いだし〜」
「そう言うところだけは気が合うんじゃない?」
「うわっ、最悪」
尚哉の顔を見ればどれほど桃を苦手としているかよく分かる。
でも諜報のくせに考えてることを顔に出す癖はどうにかした方がいいと思う。
「ねぇ、あれ…」
ふと、そんな声が耳に届いた。
ヒソヒソと。
それに加えてやけに熱狂的な視線が注がれる。
(ここでもか…)
溜息しか出ない。
「帰りたい…」
無意識に本音が零れる。
出来ることならこんなところに来たくなかった。
勉強が嫌いだからではない。他人と馴れ合うことが面倒だからでもない。
何故ならここにはあたしが最も会いたくないあの人がいるからだ。
「何言ってんだよ、まだクラスにも顔出してねぇのに」
「だったら早く案内して。そのために来たんでしょう?」
「あ、やっぱクラス知らなかった?」
「悪い?」
「俺が迎えに来て正解じゃん」
そう言って尚哉はさも当たり前のようにあたしの手を取って歩き出す。
「……おい、手」
「んー?」
「んーじゃねぇよ誤魔化すな。いいから手離せ」
「はいはい、もうちょっとで着きますよー」
「ガキ扱いすんなボケ」
教室まで案内してくれるのかと思いきや、連れて来られたのは金色のプレートに「理事長室」と刻まれた重厚感のある扉の前だった。
「ちょっと、ここって…」
「理事長室。停学明けなんだしまずはここからだろう?」
「そりゃ、そうだけど…」
まさかいきなりここに連れて来られるとは思わなかった。
尚哉に言われたのは癪だが、確かに問題を起こした後の初登校は職員室か校長室と決まっている。経験済みだ。尚哉曰く、今日は校長不在のため代わりに理事長室に連れて来たらしいが、別に担任でも良かった気がするのはあたしだけだろうか。
「面倒臭ぇ…」
「仕方ねぇだろう、あんだけ派手にやったんだから。早いとこ行って来いよ、ここで待っててやるからさ」
「はぁ…」
ここに入ったらもう引き返せない。
そんな気がしていた。
「……腹括るか」
あたしは扉を3回ノックしてドアノブに手を掛けた。

