イケメン警察官、感情ゼロかと思ったら甘々でした

バッグの中をまさぐる手が、わずかに震えていた。

ドアマットの位置――たったそれだけのことかもしれない。
けれど、今の美香奈には、それが“ただのズレ”だと思い込むことができなかった。

(おかしい。やっぱり……誰かが、ここに来たんじゃ――)

そう思う一方で、もう一人の自分が囁く。

(でも、それだけ? 他には何もない。勘違いだったらどうするの?)

不安と理性のあいだで揺れながら、名刺を取り出す。

神谷の名前。
印字された直通番号。その下に、あの日の記憶がよみがえる。

“何かあれば、すぐに連絡を”

(今回は……かけても、いいよね?)

自分に言い聞かせながら、震える指先でスマートフォンの画面をタップする。

呼び出し音が、やけに大きく響いた。

(気のせいだったら、どうしよう……でも、それでも)

『……神谷です』

その低く落ち着いた声が、胸のざわめきをほんの少し静かにさせた。

「……橋口です。あの……今日、ほんの小さなことなんですけど……ちょっと、不安になって」

少しだけ声が揺れていた。
けれど、それは“誰かに頼ること”をようやく自分に許した証でもあった。