警察官はしばらくメモを取ったあと、手を止めて言った。
「ご不安な気持ちはわかります。ただ……現時点では“何も起きていない”という判断になってしまいます。店内で声をかけられたわけでも、つけられたわけでもないということであれば……」
言葉を濁しているようで、結論ははっきりしていた。
――被害届は出せない。警察は動けない。
「せめて、店の防犯カメラとか……」
「確認はします。ただ、防犯カメラの映像は、何かあったときに初めて取り出せるものでして……こちらから要請するには、もう少し“明確な事情”が必要になります」
美香奈は、力なく頷いた。
正しいことを言われているのは、わかっていた。
でも、感情がついていかなかった。
名刺を渡すと、警察官はそれを一瞥して眉を上げた。
「司法書士さん、なんですね」
「はい」
「そういうお仕事をされている方なら、よくご存じかと思いますが……今の段階では“予防的対応”しか取れません。申し訳ないんですが」
丁寧な言い方ではあった。だが、その丁寧さがむしろ、壁のように思えた。
「……ありがとうございました」
交番を出た瞬間、夜の冷たい風が頬を撫でた。
体がこわばっていたせいか、それがやけに強く感じられた。
「ご不安な気持ちはわかります。ただ……現時点では“何も起きていない”という判断になってしまいます。店内で声をかけられたわけでも、つけられたわけでもないということであれば……」
言葉を濁しているようで、結論ははっきりしていた。
――被害届は出せない。警察は動けない。
「せめて、店の防犯カメラとか……」
「確認はします。ただ、防犯カメラの映像は、何かあったときに初めて取り出せるものでして……こちらから要請するには、もう少し“明確な事情”が必要になります」
美香奈は、力なく頷いた。
正しいことを言われているのは、わかっていた。
でも、感情がついていかなかった。
名刺を渡すと、警察官はそれを一瞥して眉を上げた。
「司法書士さん、なんですね」
「はい」
「そういうお仕事をされている方なら、よくご存じかと思いますが……今の段階では“予防的対応”しか取れません。申し訳ないんですが」
丁寧な言い方ではあった。だが、その丁寧さがむしろ、壁のように思えた。
「……ありがとうございました」
交番を出た瞬間、夜の冷たい風が頬を撫でた。
体がこわばっていたせいか、それがやけに強く感じられた。



