交番は、百円ショップから徒歩五分ほどの場所にあった。
歩き慣れた道のはずなのに、今はやけに長く感じる。足が思うように進まない。
早足になると、後ろから誰かがついてきているような錯覚に陥る。
振り返るたびに、風と車の音しか聞こえなかった。
やがて見えてきた、小さな建物。
ガラス扉の向こうには、制服を着た年配の警察官が一人、事務作業をしているのが見えた。
勇気を振り絞って、扉を開けた。
かすかに、ドアに吊るされた鈴がチリリと鳴る。
「こんばんは」
顔を上げた警察官は、五十代くらいだろうか。
丸眼鏡をかけた、どこか穏やかな雰囲気の男性だった。
「どうされましたか?」
その声には威圧感も怒気もなかった。
けれど、そこに“焦り”や“危機感”も感じられなかった。
美香奈は、自分が今どれほど動揺しているか、相手にうまく伝えられる自信がなかった。
それでも――何とか、言葉をつなげる。
「少し前、近くの百円ショップで……見知らぬ男に、じっと見られて。棚の隙間から……近づいてきて……怖くて、逃げてきたんです」
声が、わずかに震えていた。
警察官は表情を変えず、うなずきながらメモ帳を手に取る。
「はい。それで、男の特徴は?」
「灰色のパーカーに、キャップを深く被ってて……顔は、あまり見えませんでした。でも、目が……すごく、怖くて」
「接触は? 何か声をかけられたり、体に触れられたりしましたか?」
「いえ……何も。ただ、ずっと、見ていて……」
言いながら、自分でも説明が曖昧なのがわかる。
けれど、だからこそ怖いのだ。
“何もしていない”から、逃げることも、訴えることもできない。
歩き慣れた道のはずなのに、今はやけに長く感じる。足が思うように進まない。
早足になると、後ろから誰かがついてきているような錯覚に陥る。
振り返るたびに、風と車の音しか聞こえなかった。
やがて見えてきた、小さな建物。
ガラス扉の向こうには、制服を着た年配の警察官が一人、事務作業をしているのが見えた。
勇気を振り絞って、扉を開けた。
かすかに、ドアに吊るされた鈴がチリリと鳴る。
「こんばんは」
顔を上げた警察官は、五十代くらいだろうか。
丸眼鏡をかけた、どこか穏やかな雰囲気の男性だった。
「どうされましたか?」
その声には威圧感も怒気もなかった。
けれど、そこに“焦り”や“危機感”も感じられなかった。
美香奈は、自分が今どれほど動揺しているか、相手にうまく伝えられる自信がなかった。
それでも――何とか、言葉をつなげる。
「少し前、近くの百円ショップで……見知らぬ男に、じっと見られて。棚の隙間から……近づいてきて……怖くて、逃げてきたんです」
声が、わずかに震えていた。
警察官は表情を変えず、うなずきながらメモ帳を手に取る。
「はい。それで、男の特徴は?」
「灰色のパーカーに、キャップを深く被ってて……顔は、あまり見えませんでした。でも、目が……すごく、怖くて」
「接触は? 何か声をかけられたり、体に触れられたりしましたか?」
「いえ……何も。ただ、ずっと、見ていて……」
言いながら、自分でも説明が曖昧なのがわかる。
けれど、だからこそ怖いのだ。
“何もしていない”から、逃げることも、訴えることもできない。



